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宛先のない手紙 ~私と旧都の紅大尉に託されたもの~  作者: 井ノ上 杏
第三章

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第27話 時の流れ

 夕食の席にはバルト兄様の妻のレクシー、娘のエレノアとテレーゼも勢揃いした。


「マルゴのお母様と約束しているのよね、無事に会えるといいわね」レクシーが私に優しく言った。

「汽車が遅れたりしないといいのですけど」

私が答えると、バルト兄様がエルストナーに向かって言った。

「明日の朝一番の汽車だったな? 出発時刻によく気をつけて、乗り遅れたら大変だぞ。定時法の新式の時計を持っていないと……エルは持っているか?」


――そういえば、エルストナーの時計はまだ私が持っているけれど大丈夫なのかしら。


「ああ、最近軍でも定時法が導入されたから持ってる」彼は腰元をぽんと叩いてみせた。

そこには確かに時計らしき金属の丸いケースがついていた。彼が別の時計を持っていたので、私はほっとした。

「軍は新技術を取り入れるのが早いからな。マルゴは新式の時計を持っているのかい? 店にも取り扱いがあるから、気に入ったデザインのものがあったら好きなのを持っていっていいよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

時計をエルストナーに返したほうがいいのかしら。あとで彼に聞いてみよう。私が持っている時計は多分、旧式のだと思うんだけど。


 エレノアが可愛らしい声で父親に言った。

「わたしもとけい、ほしい」

「まだエリーには早いよ」

「わたし、おねえさんだもん」

「テアよりはね、でも時計は扱いが難しいからマルゴくらい大きくなってからじゃないと」

「えー、じゃあ、ずっとずっとあとじゃない」


 お祖父様が亡くなった年にエレノアが生まれたのだった。

――生まれたての赤ちゃんが、自分でご飯を食べておしゃべりする女の子になるくらいの時が経ってしまったのね。

お祖父様がこの子を見たらどんなにか可愛がってくれるだろう。

そう思うと、知らず知らずのうちに瞳が潤んでしまった。


 私は微笑んでエレノアに言った。

「きっと十八歳になる頃に貰えるわよ」

「わたし、ごさいよ」

エレノアは自慢げに小さな手を広げると私に示して見せた。その愛らしい仕草に、食卓に笑顔が溢れた。

「あと十三年かかるわね」

「そんなに?」

驚くエレノアの頭をバルト兄様が優しく撫でた。


「ずいぶん先のことに感じるけれど、きっとあっという間に大きくなってしまうんだろうな」

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