第23話 両親の記憶
祖父母が生きていた時、仕事で海外にいるという両親のことを尋ねるとぎこちない空気が流れた。
いつも穏やかな祖父の表情がこわばって、優しい祖母が悲しげな表情を浮かべる。
彼らにそんな顔をさせるのが辛かった。
惜しみない愛情を注いでくれた祖父母。両親に会いたいと言ったら私が満たされていないように見えてしまうかもしれない。愛情が足りないのだと気に病ませてしまうかもしれない。そう思うと言えなかった。
父の名の書かれた本を本棚で見つけて、こんな本が好きだったのかな、と想像していた。
若い父の小さな肖像画を祖父の書斎で見つけた。引き出しの奥に伏せて入れられて、まるで隠しているかのようだった。祖父が外出している時を見計らってこっそりと覗き見た。
理想の両親を想像した。かっこよくて立派な父と優しくて美しい母。
ある日突然迎えに来てくれることを想像して、庭の木に登って誰か見知らぬ人が来ないかとずっと待っていた。
――でも来なかった。
会いにも来ず、手紙も寄越さない。それは何? 無関心だ。
あまりに何度も手紙が来ないかと尋ねるので祖父母が父に言ったのか、一度だけ短い手紙が届いたことがあった。
もしかしたら祖父母のどちらかが書いたものだったのかもしれない、と今は思う。
『愛するマルガレーテ
仕事が忙しくてね、なかなか手紙を書けないんだ。
いい子でいるんだよ。
父より』
あまりに幼くて、いくら忙しくても、海外にいたとしても、手紙くらいは書けるという事実に気が付かなかった。
ずっと宝箱にしまっていた手紙。
でも父の中に私は存在しなかった。
村にも孤児がいた。私は違う。私には祖父母もレイもいる。
私は可哀想なんかじゃない。
私は、寂しくなんかない。




