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宛先のない手紙 ~私と旧都の紅大尉に託されたもの~  作者: 井ノ上 杏
第二章

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第18話 ブランによる調査結果

 俺は例の頼みごとの結果を聞きに行くため、再び情報部の資料室を訪れていた。

ブランは俺の姿を認めると、机の引き出しからメモを取り出した。


「どうだった?」

「探してみましたよ。あんまり古いんで、地下の書架まで行きました」

「手間を掛けたな」

「ま、新しいことは分からなかったんですよ。記録なしです。別の書類に含まれている可能性は否定できませんが、そんなの偶然以外に見つけようがないですから。全員の記録簿があるわけじゃないので、将校でもないただの兵士の記録簿なんてありませんでした。戦没者リストには載っていましたが、分かることなんて部隊名と氏名だけ……もうすでにあなたが知っていることです。確かにその兵士は存在していて戦死したらしい、その確認にはなりましたね」

「そうか……」

我ながら気の抜けた返事だった。


「そんなにショックでしたか?」驚いたブランが言った。

「こんなのいっぱいあるんですよ。なにも珍しいことじゃないんです。資料が消失したり、そもそも記録がなかったり……」

「いや、別件でちょっと……」

「だから辛気臭い顔してたんですね。あ、もしかして振られましたか?」

「いや、もっと悪い……」

「財布か家の鍵でも失くしましたか」

俺は呆れてブランを目の端で見た。

「すみません。つい自分の感覚で考えてしまいました。大尉の場合だと……名誉を失うようなことがあった……あ、違いますか。じゃあ仲間関係?」

思わずため息が漏れた。


「士官学校のときは良かったな。楽しかった……」

教官の真似をして友人たちを笑わせたり、女性に貰った手紙の数を競ったり……女優が客席のセスと俺のどちらにウインクしたか冗談交じりに言い合ったり、夜更けまでくだらない話ばかりした。


――あんな馬鹿なことを同じ温度で楽しめるやつなんていなかった。


 ブランは得体のしれない珍獣を見るような眼差しを俺に向けた。

「正気ですか? 過去を美化してません? 僕は士官学校なんて一刻も早く卒業して、理不尽な命令と不毛な事務仕事を撲滅したいと思ってましたよ。あ、あなたは集団生活を楽しめるタイプでしたっけ」


 そう言いながらブランは手にしていたメモをこちらへ差し出した。

「落ち込んでらっしゃるところに追い打ちをかけるようですみませんが、今回の件と引き換えにご馳走になる料理店をピックアップしておきました。このリストの店ならどこでもいいです。予約が取れないので有名なんですが、あなたなら訳ないでしょう?」


 結果を記したメモかと思いきや、なんと料理店のリストだった。俺は几帳面な字で書かれた店名とその住所に目を通した。ご丁寧なことに、店名に太線を引いて強調してある。


 ブランの奴め、妙な気遣いをしやがって……。


「ああ……個室を取ってやるよ」

「誤解を生みそうなので、普通の席でいいです」

「そうか、つい。男と二人きりで飯なんて行かないから」


――セスを除いて。


 二人で夜の任務明けに阿呆みたいに呑んだな。あのときは若くてエネルギーに満ち溢れていて無茶ができたんだ。自分たちの都合だけで動ける自由気ままな日々はもう帰ってこないんだな。


「中の遺書に具体的な地名が書いてあるかもしれませんよ」

「……そうだな」

「まだ開けないつもりですか。私が開けてあげましょうか? ちゃんと上手く封をしてあげますから」

「何言ってんだ」苦笑する俺にブランは驚きの表情を浮かべた。


「自分の手を汚さずに済むなら黙認する人間の方が圧倒的に多いですから」

「俺はやるなら自分の責任でやるよ」

「見上げた精神ですね、いやはや……あなた、意外に硬派というか古臭いんですね」

「何だって?」俺は眉をしかめた。

「硬派なのは薄々知っていましたが……いや、その年齢で本当に珍しい」

「どういう意味だよ」

古臭いだの年齢だのと言われた俺は不機嫌さを隠そうとしなかった。


――ただでさえ、青春時代を思い出して切なくなっているというのに。


 生真面目な表情でブランは返した。

「そのままの意味です。”珍しい”、それだけです。別に良いとも悪いとも思っていませんし、褒めても貶してもいません」

「……なんだか腹が立つな」

「よく言われます。世間では本当のことを言うと角が立つようで、苦労しますよ」

ブランはわざとらしくため息をつくのだった。

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