第17話 アシュトン男爵家のお茶会
次の休日、私はアシュトン男爵家に招待してもらった。私たちはお互いにシラ、マルゴと呼ぶようになっていた。素敵な中庭でお茶をごちそうになりながら私は彼女に婚約のお祝いを伝えた。
「本当におめでとう、シラ。婚約なんて素敵ね」
「ありがとう。実は、マルゴがセスを好きになるんじゃないかって心配だったの」
ふいにベルンハート中尉を褒めた私のことを、彼女が意味深に見つめたことを思い出した。
「そうだったのね。……ねえ、ベルンハート中尉からのプロポーズってどんな風だったの? 聞かせて」
「それは……」
「それは?」私は期待に目を輝かせて身を乗り出した。
照れたシラは口元をほころばせた。幸福感が私にまで伝染するような愛らしい微笑みだった。
「秘密よ。セスに断りなく勝手に話せないわ。あなた自身のときを楽しみにしていて」
「私はまだ学生だし、何年先になるか分からないもの。雰囲気だけでも味わわせて」
「雰囲気だけでも、って……」
声を立てて笑うシラに私は口をとがらせて答えた。
「だって、私には本当に何にもないんだもの」
シラの笑顔が引っ込んだ。
「マルゴ……本当に、今まで何にもないの……?」
「本当の本当に何もないわ。初恋は始まることもなく終わったし」
「まあ……でも初恋ってほろ苦いものなのかもしれないわね。マルゴの初恋相手ってどんな方だったの?」
「従兄の……」
「カエリム大尉!?」
「違うわよ、従兄といってもエルストナーの弟の……待って、なんで私の話になっているの?」
「気づかれちゃった。惜しかったわね」
「シラってば……。じゃあ、プロポーズの内容は秘密でいいから、ベルンハート中尉のどんなところに惹かれたのか教えて。それならいいでしょ?」
「そうね……外見が素敵っていうのもあるけど、内面で言うと私を尊重してくれるところかしら」
私は相槌を打って話の続きを待った。
「私が何気なく言ったことや好きなものを覚えていてプレゼントしてくれたり……。あと、これは私にだけじゃないのだけど、他の人の意見を年齢や性別の偏見なしに、きちんと聞いてくれるところね。彼はしょっちゅうふざけているように見えるかもしれないけれど、根はとても真面目なのよ」
「ギャップっていいわよね。それに、意見を尊重してくれるっていうのは大事ね」
「そうよ。マルゴもあなたのことを尊重してくれる男性を選んでね。大事にしてくれない人はどんなに惹かれたとしても駄目よ、不幸になるだけだわ」
「自分のことを大事にしてくれない人のことなんて、好きになるかしら?」
「なるわよ。そういうのよく見かけるわ」
「そうなの?」
もうじき十八になる私は、理屈抜きに人に惹かれる気持ちなどまだ知らないのだった。




