表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

第7話 エレナ君臨

 この庄屋がある場所は、現実では塚田歴史伝説館がある場所だ。


 江戸時代に、材木問屋として創業した蔵を改装した、歴史伝説館。

 現存する白壁土蔵が巴波川沿いに並ぶ景色は、蔵の町栃木市のシンボル。この景色の中心たる、歴史伝説館を、アイルの実家の庄屋として描いた。


「本当に推しているキャラクターをモデルに、私を描いた?」


 里緒菜が聞く。


「ええ。」

「実際にお付き合いしている方は?」


 その問いに、私は(黙れ!)と思う。


「あっごめんなさい。禁句でした。」


 里緒菜は慌てて謝るので、私も「いえ。気にしないでください」と詫びる。


「「時計仕掛けの転移恋歌」で、私がエレナと出会う場面を描きましたが、これはヤマトの願望では?」

「-。」


 私は何とも言えなかった。


「好いてくれるのは嬉しいですが、私はエレナを愛しておりますので―。」

「そのように描いたのも私です。ついでに、エレナも里緒菜さんも、お互いとんでもない寂しがり屋で、互いの顔が見えなければおかしくなってしまうとも―。里緒菜さんはアンドロメダ星雲が銀河だと証明したがために、学会を追われた過去を持つ孤高の科学者故に、隕石となってこの世界へ転移して来たエレナを弟のように―。」

「裏設定するならば、私はその前日、孤独な寂しさのあまり日光東照宮で祈ったのよ。「私は孤独です。寂しいです。愛する人が欲しい。」って。そしたら、空からエレナが落ちて来て―。あぁ、これは神様が導いてくれた縁なのだと。それまで、私は、神様なんて信仰していなかったのです。ですが、その一件から、信心深くなりました。」


 と、里緒菜は微笑んだ。


 確かに、「時計仕掛けの転移恋歌」では孤独な科学者として描いた場面も多々あるが、神を信仰してないとは描かなかった。

 こうして、自分の描いた世界で、自分の描いた登場人物と会うことで、その人物の見えなかった一面が見られるのは不思議な感覚だった。


 御勝手で、里緒菜と一緒に夕食の準備をしていると、表から車のエンジン音。


「ぶっ!本当にやってる。」


 と、男の笑い声。


「助手席は、霧積博士のモデルのキャラクターと言うけど、似てる。」

「照れくさいわ。」

「いいんじゃね?」


 そんな話声が近付いてくる。

 勝手口の扉が開いた。


「ただいま戻りました。」

「お帰りなさい。電車が遅れたって?」

「ええ。嘘では無いです。本当です。」

「首、甘噛みさせていただきます。と言いたいですが―。」


 里緒菜が私に視線を飛ばした。

 横川エレナは私に気付いた。

 私はエレナを前に、言葉を失った。


 なぜなら、エレナは私で、私はエレナなのだから。


 鏡で互いを見ているような、奇妙な感覚に襲われている。

 エレナも、私を見て同じ思いらしい。


「あらっ!こんにちは!」


 エレナの後ろから、紺色がメインのスーツを身に纏い、肩まで伸びたセミロングの黒髪に空のような青色の瞳を持つ女性が顔を出した。霧積博士だ。


「初めまして!」


 霧積博士の後ろから、博士と同じ背丈の茶髪ツインテールの髪型に明るく人懐っこい感じの娘がピョンと飛び出る。霧積博士の娘、ネルラだ。


「えっと―。はじめまして?」


 私はお辞儀をする。

 エレナも「あっ」と慌て気味になりながら「はじめまして?なのか―」とお辞儀をした。

 電話の時はかなりゲラゲラ笑っていた。


 そして「スペーシアクロスロード」では、冷酷非情だが里緒菜に頭が上がらず、一歩、研究室を出ると弱虫で泣き虫になってしまう科学者として描いたが、私を前にした途端、エレナは別人格のようになっている。


「スペーシアクロスロード」の前。エレナがこの世界へ来た時を描いた「時計仕掛けの転移恋歌」では、機械音声のように話すという特徴もあったが、里緒菜と共に過ごすうちに、人間に心を手にしたのだが、少々里緒菜の要素を強く入れ過ぎただろうか?

 とにかく、今、目の前に居るもう一人の私の人格と言うべき存在、横川エレナを前に、私はたじろいでしまった。


「ゴン!」と、里緒菜の拳骨がエレナに命中。


「邪魔。」

「あっ―。申し訳ございません。」

「気持ちは分かるけど、空気読みなさい。」


 里緒菜の声には怒気が含まれていた。

 しかし、私の方を見ると里緒菜は微笑みを浮かべる。


「どこか、二人でゆっくり話せるところでお話しなさい。」

「でも、こちらの方は―。」

「いいのです。」


 里緒菜は微笑む。

 まるで、母親のようだった。

 一方で、エレナに対しては、姉のように「ほら行け!」と蹴りを飛ばす。

 エレナは慌てふためきながら、里緒菜に頭を下げ「研究室で―」と言う。


「里緒菜さん、えっと、1時間で終わらせますので―」

「1秒でも遅れたら、首を舐めまわします。1分毎に絶頂を1回追加。」


 里緒菜が冷たく言うと「ついでにお耳も!」と、霧積博士が悪ノリで言う。

 里緒菜とエレナの関係は、私が描いた通りだった。


「行きましょう。」と、エレナは言う。


 私も里緒菜に頭を下げる。


「あぁ待って。」


 里緒菜はエレナにポットとティーカップを置いた盆を渡す。


「ありがとうございます。」


 と、エレナはまた、里緒菜に頭を下げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ