第6話 庄屋
鉾根とお茶を飲んだ後、うずま公園に停めた車で庄屋に向かう。
といっても、ここから目と鼻の先なのだが、「せっかくだから」と鉾根が言い、車で行くのだが、私のS660は厄介者で、助手席はあるが、トランクと言う物はなく、助手席は荷物置き場のようなものだ。
簡単に言えば、S660は助手席に人を乗せることを想定していないのだ。
ロールトップの屋根を収納する箱が、フロントのラジエーターの後ろにあるので、そこに無理矢理、私の荷物を押し込んで、鉾根を助手席に座らせる。
「せまっ!」と、言うリアクションにはもう慣れっこだ。こんな車に女性を乗せるバカな男などいるものか。
鉾根を乗せた途端、見慣れた栃木の街並みが少々古ぼけた物になった。
(おやっ?)と思い、うっかりを装ってミツワ通りより一本東側の日光例幣使街道に出てみると、そこには出桁作りの商店家屋や、石造りの建屋、レンガ造りの建屋が立ち並んでいた。そして、歩道を見ると、和服ドレス姿、袴にブーツを合わせた服装、和洋折衷の着こなしの人が歩いている。
(大正浪漫な世界―。)
私は目を輝かせた。
「あぁ、ちょっと駅前に行ってくれない?駅前の回転寿司屋さんで、今夜の夕食の買い出ししちゃうから。」
鉾根が言うので、私は日光例幣使街道を栃木駅方面へ向かう。
駅前の回転寿司屋は、私の世界ではチェーン店だったはずだ。
近いうち、この寿司屋と併設しているハンバーグレストランは潰れるとかいうが―。
駐車場に車を停める。
駐車場には、一昔も二昔も前のスバル360や、TOYOTA2000GTといった車や、AE86やインスパイアといった、私の世界でも「ゴミ」や「化石」と揶揄されるような車も止まっていた。だが、S660と同世代の車は居ない。
(車だけ見ると、俺の車だけ異質。)
と、思うが、寿司屋の価格は私の世界と同じだった。
庄屋に着くと、ちょうど仕事が終わったと見えて、表ではどこか幼さを感じさせる容姿の、黒髪セミロングで前髪がパッツンと切りそろえられた女の子が、掃き掃除をしていた。
「ウララちゃん!」と、鉾根がウララに抱き着く。
「ちょっ!お客様の前―。」
白百合麗は私を見ながら言う。
「ええ。その方はお客様。でも、私達を良く知っているし、私達も、よく知っている方ね。」
長身で容姿端麗、眼鏡を掛けた科学者風の女性がニヤリと笑いながら言う。
「えっと?はじめましてって言うべきかな?ウララ。それに、里緒菜。」
私は頭を掻きながら挨拶する。
「お待ちしてました。お会いできて光栄ですわ。えっと―。ネットのハンドルネームはエレナだけど、ヤマトって呼んでいいの?」
「貴女の旦那さんと混乱してしまいますから、旧愛称のヤマトで結構です。」
「では、そう呼ばせていただきますね。」
42歳であるが、その容姿は20代後半から30代前半のような軽井沢里緒菜は微笑んだ。
「エレナは?」
鉾根がエレナの姿を探す。
「そらとネルラを迎えに駅へ―。なんか、電車が遅れてるみたいで、ちょっと遅れるって。」
里緒菜は自分のスマホに目を落として言った。
「あぁ―。それでは仕方ないね。」
鉾根も納得した様子。
「嘘だったら?」
面白半分に私は里緒菜に聞いてみた。
「うーん。そらとネルラが居る以上、嘘では無いだろうけど―。」
里緒菜は空を見上げながら少し考えた。
「ドクターフィッシュのお風呂で私と混浴の刑。貴方はそんな事を考えるでしょう?何せ、エレナは貴方で、私は―。」
里緒菜は私のS660の運転席にラッピングされたゲームのキャラクターに視線を飛ばしながら、ニヤリと笑って言う。
「ええ。」
私もニヤリと笑った。
「では、待っている間、束の間の夫婦のような事しましょう?料理は出来る?」
「うどんを茹でるくらいなら―。」
前橋に住むようになってから、アパートの設備上、私は料理をしなくなった。
かつての得意料理はホットケーキやら、餃子やら、カレーやら、うどんやら―。
「なら、お皿の用意をお願いね。」
里緒菜はまるで、エレナに指示を飛ばすように、私に言った。
エレナが霧積そら博士とネルラを連れて来るまでの間、束の間、私はエレナのポジションの代役だ。




