第4話 招待
桐生市内の銭湯「上の湯」で一風呂浴びて、今日1日の汗を流す。
(わたらせ渓谷鐡道のトロッコ列車と追い掛けっこしていた時と変わらない。一日遊んで流した汗と疲れを、銭湯の熱い風呂で流して癒す。これで、いろいろな事はすっきりさ。)
私は思いながら、熱い湯船に入る。
SL大樹に活動の中心が移ってからも、これは変わらない。
仕事の勤務シフトによっては、銭湯に立ち寄れない事もあるが、それでも、立ち寄れる時は立ち寄って、一日遊んだ汗と疲れを、熱い風呂で流して癒す。SL大樹になってからは、蒸気機関車の煙の煤を洗い流すという事も加わった。
風呂を出て、番台の前の休憩スペースに座り、水筒の中の冷たい水を飲んでいたら、スマホに着信。栃木市の庄屋からだった。
「もしもし―。」
「わざわざ、電話ありがとう。こちらの携帯の番号を伝えればよかったが失礼したね。」
「エレナ?」
「はははっ。さすが。分かったか。」
電話の相手は、横川エレナ。
「スペーシアクロスロード」で、アイルの父にして、2035年の世界から、2005年の異世界、つまり、アイルの世界へ転移した人物として描かれるキャラクターだ。
「さて、手紙の件だけど、是非、君と会いたい。会って話をしたいなと思ってね。私だけではない。里緒菜さんも、白百合姉妹も、それから、霧積博士とネルラも。あぁ、君にとっては気になる相手もね。」
「ルナとアイル―。」
「そう。でも、二人は仕事だからねぇ。上手く休みが合うかどうか―。君は次、いつ日光鬼怒川地区へ行く?ルートはどういうルート?」
「エレナは、どうします?日光鬼怒川地区へ皆で行くので?」
「あぁ、それが―。」
「分かりました。では、私の方から栃木へお伺いしましょう。」
「本当?助かるな。」
「では、宿と日程の調整をしますので―。」
「宿?いいさそんなの。家に泊りなよ。」
エレナは冷酷非情な科学者として描いたのだが、今話している相手はかなりフレンドリーだ。
なので、少々拍子抜けする。
「では、お言葉に甘えさせていただきます。ちなみに日程ですが―。」
私は直ぐ直近に、栃木市で一泊した上で日光鬼怒川地区へ行くという行程を組める日を伝える。
「あぁ―。ちょっとルナとアイルが来られないかも―。」
「構いません。でしたら、栃木から日光鬼怒川地区へ行きますので。」
「ありがとう。ところで、切符を同封したから、それで「大樹」に乗りなよ。」
改めて切符を見ると、空欄だった日付欄に日付が書かれていた。
「わっちょっと。ひゃん―」
変な声が聞こえたと思うと、直ぐに声が変わった。
女性の声だった。
「ふふっ。初めまして。」
「里緒菜さん?」
「エレナのわがままに付き合わせてしまってごめんなさい。でも、私も会える日を楽しみにしておりますわ。」
「こちらも、同じ思いです。里緒菜さんにお目にかかれること、楽しみにしております。」
そう言った後、エレナは研究室に籠るか、肝心な時に筑波山観測所へ行く奴だと思い出した。
「もし、エレナが逃げ出したら、里緒菜さんの胸に挟み込んで、霧積博士にお尻を叩いてもらいましょう。」
「あははっ!面白いこと言うね!エレナって、冷酷非情って言うけど、すっごく子供っぽいから。私の弟のようね。では、また、当日を楽しみにしているね。」
銭湯を出ると、私は二重の意味で興奮していた。
電話越しに、先ほどまでSL大樹の車内で書いていた小説「スペーシアクロスロード」のキャラクターと話が出来た事。そして、そのキャラクターと実際に遭えること。
そんな事有り得るのだろうか?
仮に会えなくとも、電話で話せただけで、私は満足だ。
(ルナとアイルとは話せなかったけど。)
私はそんな贅沢を思いながら、S660のエンジンをかけた。




