第3話 手紙
「突然、このようなお手紙を受け取ってさぞかし驚いている事でしょう。ですが、どうしても貴方にお会いして、お話ししたいと思い、このようなお手紙を書きました。次回、日光鬼怒川地区を訪れる際にお話ししたいので、連絡をいただけますと幸いに思います。」
要点をまとめると、このような内容の手紙だった。
書かれていた連絡先を確認する。
連絡先は2つ。
1つは日光市内の電話番号。
もう1つは栃木市の電話番号。
私は迷った末、まだ日光市内に居ることから、日光市内の電話番号に掛けてみた。だが、相手は留守なのか、呼び出し音は鳴ったが出ない。
(けっ!騙されて堪るか。)
私は鼻で笑うと、コンビニを出る。
国道120号をいろは坂方面へ向かって行く。
私は「スペーシアクロスロード」の前にもいくつかの小説を書いた。
その内、モータースポーツを扱った小説では、いろは坂から金精峠までの国道120号でJAF主催の公道レースを行うという場面もあり、主人公のS660が、ライバル達と共に激しいデットヒートを繰り広げるという物があり、そして、その場面にも少しだけ、SL大樹も登場した。
今は、モータースポーツを扱った車の小説は、諸事情から休止状態になってしまったが、その代わりに、「スペーシアクロスロード」を含む別シリーズ作品を集中して執筆することが出来た。
(でも、書き終わった今、何を描けばいいのかな。)
と思いながら、車の小説の主人公たちがデットヒートを繰り広げたいろは坂の方へ行く国道120号を離れ、国道122号に入り、日足トンネルを潜って日光鬼怒川地区に別れを告げる。トンネルを出るともう、日光連山は見えなくなった。
今日はこのまま、桐生まで抜けて、銭湯で一風呂浴び、大間々の町外れのハンバーグ屋で肉でも食べて帰るつもりだ。
かつては、わたらせ渓谷鐡道に沿って走る国道122号が、私のホームコースで、S660でわたらせ渓谷鐡道の列車と追い掛けっこをしていたし、草木ダム湖畔にある草木ドライブインは拠点のような場所だったが、今はその場を追われた。
今の私の活動は、車から鉄道がメインになり、そして、行きついた先と言うのが、私の住まいがある町から100キロ離れた日光鬼怒川地区。
(ルナは自分だな。)
私は思う。
だが、スペーシアクロスロードにおける私をモデルにしたキャラクターは、ルナでは無い。
尿意を覚えて、かつての活動拠点だった草木ドライブインにトイレ休憩で停車。5分以内に出るつもりだったが、このタイミングで、手紙に書いてあったもう一つの連絡先、栃木市の電話番号に掛けてみた。
どうせ繋がらないだろうと思った。
だが、意外な事に、呼び出し音の後に「はい。もしもし?」と、訝しげな声が聞こえた。
「あの―。」
「こちらは白百合ですが―。」
(白百合!?)
私は驚愕した。
白百合というのは、「スペーシアクロスロード」でアイルの実家の庄屋を共同経営する姉妹の苗字だからだ。
「あの、どちら様ですか?」
「あっ。失礼。えっと―。そちらに―。軽井沢という方は?」
「あぁ、軽井沢里緒菜さんでしょうか?それともエレナ?生憎、今、どちらも席を外しております。私でよろしければ、伝言をいたします。」
軽井沢と言う名前を出した途端、相手は納得したらしい。
「よろしくお願いします。えっと、私はヤマトと言う名前なのですが―。「ヤマトと言う名前の方から電話があった」と伝えてください。えっと、私の連絡先は―。」
私は名前と連絡先を伝える。
「かしこまりました。では、戻り次第、こちらから連絡します。」
「よろしくお願いします。ウララさん。」
なんとなく、相手は白百合姉妹の妹、白百合麗だと思った。
案の定、白百合麗は驚いて、「どうして私の名前を?」と聞く。
「あっ。それは、エレナさんか里緒菜さんに聞いてください。」
と、はぐらかして電話を切った。
草木ドライブインを出発すると、私は気味が悪いという思いもあったが、それよりも「私の世界が実在する」という驚きと興奮が入り混じった思いに満ち溢れ、危なく、国道のガードレールに体当たりしそうになってしまった。




