第2話 不思議な切符と連絡先
大谷川鉄橋の汽笛の場面を書いた時、SL大樹6号も大谷川鉄橋に大きな汽笛を鳴らしながら差し掛かっていた。
窓の外には日光連山が、凛とした姿を見せている。
まもなく、列車は下今市駅に着く。
ルナとアイルが、エレナと里緒菜の他にはアテンダント仲間しかいない車内へと並んでお辞儀をする場面を書き終えた時、先頭を行くC11‐207号機の汽笛が聞こえた。
それは、本当に、夕陽暮れなずむ日光鬼怒川地区の空へ、町へ、そして、ルナとアイルの心の中へ溶けて行くようだった。
列車が下今市駅に差し掛かる。
私も、ここまで書いて来た物語を書き終える。
現実のSL大樹6号と同じく、C11‐207号機が牽引する物語の列車に乗って、一緒に旅して来た、ルナとアイル。特急スペーシアXとSL大樹が、時空と次元を越えて行く、鉄道旅が終わる。
保存ボタンをクリック。
そして、スタートボタンに触れ、シャットダウンをクリックすると、SL大樹6号は下今市駅のホームに入る。
ただのパソコン操作。
しかし、シャットダウンをクリックするその瞬間、特急スペーシアXとSL大樹。ルナとアイル。時空と次元を越えた鉄道旅が終わる。
「一緒に旅が出来て、楽しかった。ありがとう。ルナ、アイル。」
涙をこらえながら、私はシャットダウンをクリック。
パソコンの画面が真っ暗になる。
ノートパソコンを閉じ、リュックにしまうと、列車の扉が開いた。
ホームに降りる。
何とも言えない、寂しい思いが、胸を支配する。
ある程度、旅客の乗降が終わったところで、私はアテンダントのお姉さんに挨拶回りをする。
一日、お世話になった列車に関わる方。それ故に、挨拶をするのが礼儀だろうという私の流儀からだ。
まずは先頭3号車の40代から50代くらいのお姉さんに挨拶。
そして、小柄なお姉さんにも挨拶。
最後に、車内アナウンス担当のお姉さんにも挨拶をしようとしたが見当たらない。見当たらないなら、深追いせず、さっさと引っ込んでしまう。
「ボォーッ!」と汽笛を鳴らしながら、今まで乗って来たSL大樹6号の編成は、下今市機関区へと引き上げていく。
私は、転車台広場へと行き、客車が留置線に入る様子。
そして、機関車が機関庫へ帰っていく様子を見守る。
(ありがとう。)
C11‐207号機が機関庫へ入って行った時、心の中でそう言った。
もう暗くなる。
私は、NTTや図書館のある中央町にある町営駐車場に停めた自分の車に戻る。
中央町は、私の小説「スペーシアクロスロード」の世界で、ヒロインのアイルの住む家がある場所だ。
なぜ中央町にしたのかは、いつも私が車を停める駐車場がある場所だからという単純な理由から。
2人乗りの軽スポーツカー、HONDA S660が私の愛車だ。
ホンダツインカム製カーボンボンネット。
バックヤードスペシャル製のリアウィング。
モデューロ製のスポーツサスペンション。
アドバンTC‐4に冬場なのでグッドイヤーの安物のスタッドレスタイヤ。
これらを身に纏い、ノーマルの姿と比べると少々無骨な姿だが、最近になって大きな変化があった。
私の好きなゲームのキャラクターを、運転席側、助手席側にそれぞれラッピングしたのだ。
運転席側はイエローを基調とし、助手席側は青を基調としたデザインに加え、キャラクターの顔の前にSL大樹のヘッドマークを入れたラッピング。
(推しは全力で推せ!自分の好きに嘘を付くな!)と言うコンセプトの元施したこのラッピング。デビューしたその日、やはりSL大樹と一緒に撮影し、SL大樹と並走した。アテンダントのお姉さん曰く、車内では大盛り上がりだったらしく、SNSにも「ありゃ何だ!?」という書き込みがあった程だ。
「さて、今日はデカイ事が終わった直後だし、一発―。」
言いながらエンジンをかける。
一発などと、意味深な事を言ったけど、まさか駅前や機関区の前でタイヤスモークぶちまけるようなアホな事はせず、下今市駅前を通過するだけ。
それが、私なりの礼のようなものだ。
(さぁて、帰りますか。)
私は駅前ロータリーを後に、日光街道へ向かう。
そして、信号待ちの時だった。
運転席のドアポケットに、なにやら見覚えのない封筒のような物が入っているのに気付いた。
だが、運転中のためすぐに確認できない。
日光東照宮を過ぎたところにコンビニがあるので、そこに緊急停車して封筒を確認する。
まさか駐車違反でもしたのだろうか?或いはオービスでも光らせたか?
だが、駐車違反ならステッカーを貼られるし、オービスなら自宅アパートにはがきが来る。そもそも、駐車場に車を停めていたから、駐車違反は有り得ないし、駐車中はドアロック、窓も閉めていたから、見覚えのない封筒が車内にある事の方がおかしいのだ。
「なんだこりゃ。」
首を傾げながら、封筒を拾い上げると封がされておらず、中身が出て来た。
それは、書簡と切符だった。
切符は、SL大樹の走る日光鬼怒川地区をカバーするフリー切符だったが、どういうわけか日付が入っていなかった。
首を傾げながら書簡に目を通すが、送り主の名前を見て驚いた。
「軽井沢里緒菜」と「軽井沢愛瑠」の名前。
それは、「スペーシアクロスロード」の登場人物の名前だったのだ。




