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第23話 並走作戦・SL大樹6号

 倉ケ崎SL花畑で下今市へ向かう観光準急「大樹2号」(SL大樹2号)を撮影すると、ルナのAE86で下今市へ向かい、今市バイパス沿いのファストフード店に入る。

 ラーメン好きのアイルに気を使って、昼食はラーメンにしようと思ったのだが、ルナがバイパス沿いの群馬県発祥のチェーン店のラーメン屋は嫌いらしい。


 理由は聞かなくとも、アニメに壊された故郷の前橋を思い出すからだと分かる気がした。私も、ルナと同じだからだ。


(だからって、ファストフード店ってのもな。)


 私は思いながら、フライドチキンを口に運ぶ。

 とうとう、ワイワイと楽しい会話が消えてしまっていた。


「並走作戦、盛り上がって行きましょう。私のエスロクを先頭に、アイルのロータス・ヨーロッパ。ルナのハチロクの隊形で、新高徳駅先の道で並走。機関車に合わせて並走体制に入り、徐々に列車の後方へ―。」


 笑顔を作りながら、並走の段取りを説明する。

 口調だけが妙に事務的で、自分でも違和感があった。


「あの―。一つ問題が。アイルさんが左ハンドルです。おまけに屋根も開かないです。車から見て右側に見える列車に手を振るのは危険です。」


 ルナが指摘した。


「かと言って、両サイドから挟み撃ちは出来ないわ。ヤマトの指示に従うわ。ロータス・ヨーロッパを真ん中に置いたのは、手を振りにくい私への配慮でしょう?ロータス・ヨーロッパは、その存在だけで目立つから。ヤマトの車と同じくね。」

「でも―。」

「でしたら、ルナ。ハチロクの中の大樹の団扇を借りますよ。それで、左側の窓から手を振れば分かりますわ。」


 アイルは自然と笑って言う。

 こんな状態でも笑顔なのが、アイルらしいと思った。


 下今市機関区の職員用駐車場に停めてあった、私のS660と、アイルのロータス・ヨーロッパのエンジンをかけ、ルナが三奈美つばさ機関士に「どこそこで並走する」と伝え、アイルもアテンダントに伝えると、並走ポイントへ向け出発する。S660のエンジン音は、ジェット戦闘機のように、空気を切り裂くようなブローオフの音を奏でるが、今日に関しては、寂しい溜め息に聞こえてしまう。


 鬼怒川橋梁の袂で、観光準急「大樹5号」(SL大樹5号)を待つ。


「撮影してすぐに出るから、踏切の音聞こえたら、エンジンスタート願います。」


 と、私は言う。鬼怒川の水の音さえも、寂し気に聞こえる。

 いつもなら、のどかで穏やかな鬼怒川の流れは、堪えている涙の流れにも見えてしまった。


 汽笛の音が聞こえ、踏切警報機の音が聞こえた。

 3人とも、車のエンジンをかける。

「ボォーッ!」と汽笛を鳴らしながら、鬼怒川温泉へ向かう観光準急「大樹5号」が、鬼怒川鉄橋をゆっくり渡っていく。

 私も、ルナも、アイルも、カメラのシャッターを切っている。


 機関車が見えなくなると、私は「行きますよ!」と合図を出し、並走ポイントへ向かう。

 窓を開け、ロールトップの運転席側だけを空けてオープンカーの状態にしてゆっくりと進み、蒸気機関車のドラフト音を聞きながら列車の位置を探る。前方に線路が見え、道が線路と並んだ時、バックミラーにC11‐325号機の姿が写った。ゆっくり、私は進み、真横に機関車が来たタイミングで手を振る。

「ボッ!」と短く汽笛を鳴らした。


 そのまま、機関車と少し並んだ後、列車に手を振りながら、少しずつ速度を落として、最後尾の3号車の真ん中あたりが真横に来たタイミングで再加速して機関車と並び、踏切で列車を先行させると、そのまま下今市へ戻る。

 機関区の駐車場に再度、車を停めると、下今市駅から普通列車で鬼怒川温泉へ向かう。


「上手くいきましたね!」


 ルナが笑って言う。


「ええ。私は左ハンドルでしたが、2号車の横に来た時、展望デッキのスピーカーの音声が聞こえて、明里さんの声で私達の事なんか言ってました。」

「それなら大成功です!そうですよね!ヤマトさん!」


 私は、息が詰まったように思いながら「ええ。」と答える。

 新高徳駅で対向列車のJR直通特急とすれ違うが、車両は157系ではなく253系だった。

「おっ。久しぶり。」と、ルナは言うが私は終わりが近付いていると余計に感じてしまった。鬼怒川温泉駅に着くと、普通列車の車両は、私の世界の東武20400系になっていた。そして、1番線にはデハ10系ではなく、スペーシアXが停車していた。


「久しぶりに、スペーシアXのお見送り!賑わしに行きます!」


 ルナははしゃぎ、アイルも弟を見守る姉のようについて行く。私は取り残された気分だ。

 それでも、1番線で浅草行き特急「スペーシアX8号」を見送る時は、ルナとアイルと並んで笑顔で手を振りながら見送った。


 列車がホームから出ると、待避線にいるC11‐325の姿が見えた。その向こうには、大戸旅館も見えるはずだが、そこに大戸旅館は無く、ホテル三日月があった。


 機関車が入換作業を開始。

 私とルナは2番線から、連結作業を撮影する。


 アイルが自分のスマホを私に渡すと、「ルナと一緒に撮って」と言うので、機関車を背にした二人の写真を撮る。何枚か、ポーズを変えながら撮影して、列車の停まっている3番線ホームに向かう。

 駅の案内では、「観光準急「大樹6号」」と案内はしておらず、私の世界の「SL大樹6号」と案内している。


 どんどん、終わりが近付いて来る。

 不意に、私のスマホに通知。


「今、電報で送りました。」と、アイル。見ると、アイルが先ほど私が撮影した写真をLINEで私に送っていたのだ。


「ありがとうございます。」

「アイルさん。抜けてます。車内でもう一度。」


 ルナが言う。アイルも「あっ―」とつぶやく。

 2号車のボックスシートに座る。


「ボッ!」と、相変わらず景気の無い汽笛で鬼怒川温泉を発車する。

 景気悪い汽笛のせいで、こちらの気分まで下がってしまう。


 持田明里が観光アナウンスを始める。

 今日の旅客も2号車に10人程度。故に、1号車と3号車のアテンダントも2号車に出張して来た。

「石原さん!写真お願いします!」と、アイルが石原に言う。


「では―、これは広報写真に使いましょう!はい、大樹!推し活君!笑ってぇ!」

「照れてる、照れてる!」


 ルナが苦笑い。私は強引に、それでも笑顔で応じた。

 ルナも分かっている。これは照れではない。


 無情にも列車は下今市へ向け進んでいく。

 名所で鳴る汽笛の音も、泣いているようだった。


 それでも、私は、SL大樹の雰囲気を壊さぬよう、アテンダントのアナウンスのノリに乗って笑ったり、ルナとアイルとSL大樹やスペーシアXの思い出話をし、逆に、ルナとアイルの恋愛事情の話を聞いたりして、笑顔でいるよう努めた。ルナとアイルも、笑っているが、心の奥底には寂しい気持ちがあるように見えている。


 列車は、大谷川を渡る鉄橋に差し掛かり、とうとう、終点の下今市の町へと入って行く。

 窓の外には、日光連山が見えていた。

 鉄橋の下のグランドで、子供たちが手を振っている。

 私とルナとアイルも、最後まで子供たちへ手を振って答えるが、私は今にも泣きそうだ。

 その一方で、アイルはルナにまた小声で何か伝える。

 ルナはそれに頷いている。

 きっと、私には関係ない事。ルナとアイルの世界の事だ。


 SL大樹6号は、下今市駅に到着した。

 私は、ルナとアイルと一緒に、アテンダント一人一人に挨拶回りをする。

 後は、下今市機関区に停めてある私の車で帰るだけ。

 私は涙が溢れそうになっている。

 跨線橋を渡って、下今市機関区のSL展示館前の転車台広場に降りた時だった。


「やぁ。」


 と、私に声がかかった。

 見るとそこには、「スペーシアクロスロード」の世界で、最も私に近い人物として描いたキャラクターの姿。

 もう会えないと思っていた。

 だが、今目の前に居るのは―。


「エレナ―。」

「へへっ。来ちまったぜ。」


 エレナはニヤリと笑った。


「最後に、お父様が駆け付けてくれました!」

「いやっ黙っているの大変でした!」


 ルナとアイルも笑顔で言うが、私は歓喜余って、涙を流し始めてしまった。



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