第22話 別れの兆し
結局、深夜0時を回るまで大騒ぎしていた私とルナとアイル。
だが、朝5時を過ぎると身体は自然と起きてしまった。
ルナとアイルはまだ寝ている。
私は一人、朝風呂を堪能しようと、二人を起こさないようにしながら、大浴場へ向かう。
(今日は、私のいつもの休日に、ルナとアイルが居ると考えればいい。今日のSLのダイヤは―。)
頭の中で今日の予定を確認しながら、脱衣所で衣服を脱いでいるとルナがやって来た。
「気配でおおよそ―。」
と、ルナは言う。
「アイルは?」
「隣です。」
女湯の方を指してルナは言う。どうやら、アイルも起きたようだ。
朝も早いから、朝風呂に入っている他の宿泊客はいなかった。
洗い場で身体を洗って露天風呂へ行くと、女湯から「ルナはそちらに居る?」とアイルの声が聞こえた。
「居ますよ!」
「今日はヤマトさんと一緒に、大樹の撮影ですね!広報写真に使える物撮りましょう!それから、並走も!」
(真似事する気かよ。ハチロク1台乗りあわせでやったら、大変な事になるぞ?)
私は「ふっ」と笑う。
「ヤマトさん。どうしましょう?3台バラバラで行きますか?或いは、ハチロク1台で?」
「平日とは言え、3台も塊になって動いたら迷惑になるかもしれんが―。」
少し考える。隊列を組んで、何人かで一緒に走る事はご無沙汰だ。
「昼飯は?」
と、聞く。
「今日はDダイヤですからね。下今市のファミレスか、ラーメン屋でしょう。そう考えると―。」
「じゃぁ、午前中はルナのハチロク1台で行こう。で、午後の並走作戦は3台で行くってのはどう?」
「では、そうしましょう。」
ルナは頷いた。
朝食は、昨夜買ったコンビニのパン。
ルナの不摂生を許さないアイルだが、今日に関しては許容しているようだ。
「では、行きますか!」
大戸旅館を出て、AE86のステアリングを握るルナは楽しそうだ。
アイルも「付き合うよ!」と笑っている。
私もそれに合わせるが、どこか、心の中に穴が空いているように感じた。
そう。
今日の遊びを終えると、今度こそ、ルナとアイルの世界は見えなくなるからだ。
朝一本目。
下今市駅から鬼怒川温泉に向かう観光準急「大樹1号」(SL大樹1号)を、栗原の交差点のトンネル付近で撮影。ここはS字カーブに加え、連続25‰の上り勾配で、蒸気機関車が盛大に煙を吐く撮影ポイントだ。
先頭を行くC11‐207号機から機関士がこちらへ顔を覗かせている。今日も三奈美つばさ機関士だった。客車を覗こうとしたがそちらは見えなかった。
「それ飛び乗れ!」
「イケイケぇ!」
ルナとアイルは完全に遊びモード。
私も付いて行こうとするが、そうすればするほどに、穴が空いて行く。
東武ワールドスクウェア駅の停車中にSLを追い越し、鬼怒川温泉駅の有料駐車場にAE86を停めて、転車台のシーンを撮影していたら「推し活君発見!」と、アテンダントから蹴りを喰らった。
「明里さん!お疲れ様です!」
持田明里というアテンダントに、アイルが挨拶する。
「今日は乗るのでしょう?6号に。」
「ええ。遊びとして。ルナと、ヤマトさんと一緒に。」
アイルはグイっとルナを引き寄せつつ、私の襟首を掴む。なんとなく、その力加減で、アイルも察していると感じた。
ルナに至っては、かなり無理矢理笑っているようにも見える。
仕事仲間と会ったからではない。
私と言う存在に気を使っているのだ。
この世界から帰った時、私の世界はどうなっているのだろうか?
そして、今後、私の未来はどうなるのだろうか?
ルナとアイルに、二人の存在について話す事は出来たが、私はどうなってしまうのか―。私は神では無い。人間だ。
倉ケ崎SL花畑で下今市へ戻る列車を待っている時、ルナがとうとう堪え切れなくなったらしい。
「分かりません。」
と、ルナは暗い声で言った。
「申し訳ございません。私とアイルさんのことをあれこれ聞いておきながら、ヤマトさんの事―。ヤマトさんの世界、ヤマトさんの存在について、私達から何も答えることが出来ないのです。分からないのです。」
ルナは事実を言っているだけだ。
何も悪さをしていない。
それなのに、ルナは肩を落とし、何度も「申し訳ございません」と謝る。
「コラっ!」
アイルがルナを嗜める。
「ヤマトさんは、お客様よ?それも、私とルナを生み出したのよ?そんな人に向かって、何暗い顔しているのよ!」
「ですが―。昨夜、私とアイルさんのこと聞いておいて、ヤマトさんの方には何のお返しも―。」
「だからって―。私達にできることは何もないのよ。」
下今市へ向かって、先行する特急列車が通過した。この列車は私の世界では「リバティ」だ。「スペーシアクロスロード」の世界で、リバティは5700系に化けたが、この列車はそれよりも後に登場した、東武350系に化けていた。
終わりが近付いてきていると言うことなのだろうか?
汽笛の音色が近付いて来る。
「-。」
ルナは唇を噛んだ。
アイルは私に背を向けて、スマホを見ている。そして、ルナに歩み寄り、耳元で何か小声で言っている。
ルナは「分かりました」と頷いた。
「何か?」
私は聞いてみるが、ルナは「なんでもないです」と言うだけだった。




