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第18話 ルナとアイル

 SL大樹6号、或いは、観光準急「大樹6号」と言うべきか?


 とにかく、私は2号車の最後尾のボックスシートに腰を下ろすと窓を少しだけ開けた。

 今日は進行方向右側の座席だ。

 2号車の展望デッキに行ってみると、先頭の3号車の乗降口で小柄なアテンダントのお姉さんが出発合図を送っているのが見えた。


(小前田さんの合図、カッコいいな。)


 と、私は思いながら2号車の方を見るとルナが車掌に合図を送ったのが見えた。ルナはどうも頼りないように見える。


「ボッ!」


 と、C11‐325が景気の悪い汽笛を鳴らし、後ろに付いているDE10は「えっ?出ていいの?」と困ったような汽笛を鳴らす。


(DE10の機関士は、あの走り屋機関士小岩剣かな?知らねえぞどうなっても。)


「グエッ!」と、大きな衝撃で、思い切り客車が後ろから蹴られたように揺れたため、思わず展望デッキのポールに飛びついた。


「つばささん、後で殺されますね。」


 ルナが言う。ルナも頭をぶつけたようで「痛ってぇ」と頭を押さえていた。


「DE10は?」

「つるぎさんですよ。」

「痛ってぇ―。ハデにケツから蹴り喰らったみたいな揺れだったぞ。」

「ブレーキ保ちから緩解できてねえのに、おならするから、つるぎさん困ってDE10で押しちゃったんですよきっと。おならでも、保ちから緩解に入るタイミングで鳴らせばいいものを―。」


 ルナが頭を抱えながら言っていると「ゴホン!」と小前田が咳払いする。


「あら?推し活君!今日もありがとう!」


 小前田は私を見ると微笑みを浮かべる。


「あぁどうも。発車の時の派手な揺れにちょっと彼に文句を―。」

「あぁ―。ルナ?機関士さんにちゃんと言ってね。」


 小前田がニヤリと笑いながら言った時、アイルの車内放送が始まった。

 先頭の3号車は誰も乗っていない上、ルナ曰く、東武ワールドスクウェア駅でも乗車は無いらしい。そして、1号車も空っぽで、2号車に10人の旅客という有様だそう。


「だから、遊んでんの?」

「まぁね。もっとも、遊んでいると―。」


 ルナが客室の方へ視線を飛ばしながら言うと、


「合いの手のお兄さぁん!サボってないで、お仕事ですよぉ!」


 と、アイルの車内放送。


「ほら来た。お呼びだ。」


 ルナは言うと、2号車の客室に入り、お辞儀をして、


「サボってません!仕事してました!」


 と、答える。


「本当にぃ?」

「本当です!」

「あぁ、景色を見るお仕事かなぁ?」

「えーっ、今日はこんな凸凹コンビで、皆様を終点下今市駅まで、楽しく、和気藹々とお連れ致します!」

「皆様、よろしくお願いいたします!」


 そんなアナウンスが流れると、まばらな客室から笑い声と拍手が聞こえて来た。


(展望デッキにいたのでは、なんか場違い感すげぇな。あの中に入ってみよう。)


 私は「ふっ」と笑い、2号車の客室に戻った。


 ルナとアイルの合いの手アナウンスで、客室は大盛り上がりの中、列車は新高徳駅で対向列車とのすれ違いのため停車する。


「進行方向右手側を、浅草からの特急列車が通過します。」

「今日はいつにもましてゆっくりです!」

「皆様、手を振りながらご挨拶してまいりましょう!」

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」


 ルナとアイル交互に喋るのを聞きながら、旅客は対向の特急列車に手を振る。

 私の世界では特急「スペーシアX」であるこの列車は、デハ10系の特急列車になっていた。

 デハ10系の車内からも旅客が手を振っているのが見えた。

 

  ―――


「新高徳駅では対向列車とのすれ違いのため停車いたします。進行方向、左側を特急列車が―。」

「違うでしょうルナ!?右でしょう?」


 本当に右左を間違えたルナだが、それをアイルが笑いに変えてカバーする。


 すれ違いとなる特急「スペーシアX9号」を見送りながら、ルナはSL大樹6号と錯覚し、後ろにDE10ディーゼル機関車が付いて来ているとアナウンスをしそうになり、急いでそれを止めた。


 この列車にはDE10が居ないのだ。


(なら!)


 ルナの世界ではDE10が付いて来ているのに、アイルの世界には居ない。

 以前は、それにも怯えていたルナだったが、今は違う。


「えーっでは改めて、進行方向左側をご覧ください!新高徳駅の駅舎から駅員さんが手を振っております!」

「さぁ、ルナと一緒に私も手を振ってお答えします!皆様もルナと一緒に、「行ってきまぁす!」」


 観光準急「大樹」も、ルナの世界のSL大樹と同じ。

 乗っていて楽しい列車だった。

 それが、ルナの中にあった「未知への恐怖」「知らない事への恐怖」「自らが死んだという事実と向き合う恐怖」を和らげて行く。


  ―――


「スペーシアクロスロード」の66話で、そんな事を書いた。

 今、目の前の世界で、ルナの中に恐怖は無く、アイルと「合いの手さん」として、アテンダントの仕事を熟していた。


「推し活君。検札忘れてた。」


 と、石原が声をかけて来た。


「さっき、ルナにしてもらいました。」

「あらま。ルナのお知り合い?」

(どうせ、私の事も、正体も知っているだろうに。)


 私は思いながら、


「ええ。」


 と頷いた。


「今日の車掌さん、機関士さんと同期よ。今日は年齢近いチームで運行よ。この先の砥川橋梁の先でアイルちゃん、そのことに触れるよ。」


 石原が言うと、列車は新高徳駅を発車して鬼怒川橋梁を渡っていく。


「私の事もネタにしていいですからね。」


 冗談半分で石原に言った時、列車は砥川橋梁を渡る。


「では、ここで一度、マイクを車掌さんにバトンタッチしましょう!なんとこの列車の車掌さんと機関士さん、同い年チームなのです!今日の列車は、「合いの手さん」をはじめ、年齢の近いメンバーでの運行を行っております!」

「なので、少し遊びやおふざけも―。」

「こーらっ!」


「コツン」と、アイルに頭を叩かれるルナが笑われている中、1号車から車掌が2号車へ出張して来た。


「車掌の御坂です!私からは、運転士、車掌の視力についてお話させていただきます!」


 御坂という車掌が話し始める。

 すると、ルナがスタスタと私の方へ歩み寄る。


「例の車の話、してもいいですか?」

「えっ?」

「並走していた件で―。」

「何かまずかった?」

「ネタとして。」

「こっちから石原さんに、OKと言ったよ。」


 ルナが御坂に「OK」と合図を送ったのを横目に、私は何を振られるのだろうかと思うが、御坂のアナウンスが終わってしまった。


「では、車掌さん!」


 ルナがマイクの電源を入れた。


「何でしょう?合いの手のお兄さん。」

「この座席に座るこの方、ラッピングを施した車で並走しておりました。」

「ええ。覚えてます。72号で、新高徳駅の先ですね。」

「この方の車は、キャラクターの他、何が描かれていたでしょう?」

「あぁ―。「大樹」のヘッドマークですね。眼鏡を掛けたキャラクターのお顔の前に―。」

「どうでしょうか!?」


 不意にルナが私にマイクを向けた。


(おいマジかよ。)


 私は思いながら「正解です」と答えると、「おおーっ!」と拍手が起きた。


「機関区でまたお話ししましょう。今日はどちらに泊りますか?」


 ルナがマイクの電源を切った状態で聞く。


「まだ、宿取って無いから―。」

「家に泊るか、或いは、鬼怒川温泉の宿を―。実を言うと、急なシフト変更で、私が明日、代休と連絡が―。アイルさんは元々明日、お休みだったのですが、私もそろいに揃って―。なので、アイルさんと私含めて、鬼怒川温泉の宿で泊るのもOKです。」

「では、そうしましょう。その方が楽しそうだし。ただ―。」

「五十里課長に、私の方から連絡して、大戸旅館の手配を行ってもらいます。ただ、夕食の方が間に合わないかもしれません―。」


 ルナが申し訳ないと詫びる。

 変にかしこまっている姿は、ルナらしい。


「いいですよ。コンビニかスーパーで何か買い込んで飲み倒しましょう。」


 と、私は微笑んだ。

 列車は倉ケ崎SL花畑を通過する。

 ルナは車内アナウンスの仕事に戻った。


(このまま旅が終わらなければいいのにな。)


 列車の音や、合いの手アナウンスの中で不意に、私はそんな無茶な事を思ってしまった。


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