第16話 並走・コンタクト
11時54分。
「ボォーッ!」と、C11‐325号機の汽笛が聞こえた。
東武日光線の上今市駅より東武日光寄りの線路沿いの道で、SL大樹ふたら71号を待つ。
雪は止んだが、景色は雪景色。
ルナと同じく、雪景色の中を行く東武のSLは見たことが無い私は少々興奮している。
「ドッドッ!シュッシュッ!ドッドッ!シュッシュッ!」と、ドラフト音が近付いてくるのを感じながら、一眼レフを構え、列車が見えるとシャッターを切る。そして、私の横に機関車が来ると、S660に飛び乗り、エンジンスタート。
「パァーン!」と電子警笛を鳴らしながら、N100系スペーシアXが東武日光側から来て、SLとすれ違うのを横目に、SL大樹ふたら71号と並走しながら加速し、県道248号線に出ると一気に、列車を追い抜いて、東武日光駅手前のJR日光線を越える歩道橋の袂に車を停める。
先ほどの撮影ポイントと並走区間では青を基調としたデザインに加え、キャラクターの顔の前に「SL大樹ふたら」のヘッドマークを入れたラッピングの助手席側が列車の方に見えるように止めていたが、ここでも同じく、助手席側が列車の方に見えるように止めると、歩道橋を少し登って望遠レンズを構える。
鉛色の空の下、白煙を上げながら、蒸気機関車が見えた。
「ボォーッ!」と言う汽笛は、冷たい空気の下、いつもより大きく遠くまで響いて聞こえる。私の目の前に来た時も、C11‐325号機は東武日光駅入線合図の汽笛を長く鳴らした。
客車を覗くと乗客は疎らな客車から、アテンダントが私の方へ手を振っているのが見えた。
2号車の車内に紅い着物のアテンダントが見えた気がしたが、旅客と見間違えたのだろう。
私はすぐにS660のエンジンをかけると、「ソビエト国歌」を聞きながら日光大谷川公園に向かい駐車場に車を停めると、車内で先程、駅前のスーパーで買った昼食を食べる。
雪景色を見てロシアを連想したので、今日の昼食はスティックパンと、ピロシキ。それにホットのミルクティー。だが、ミルクティーは時間が経って冷めてしまっていた。
不意にルナの朝食を思い出した。
「スペーシアクロスロード」の世界における、ルナのいつもの朝食は焼かない食パンにバターを塗るだけ。
(やってる事、変わらないなぁ。)
私は思う。
エレナは私がモデルだと明確に言えるのだが、それはルナも同じだろう。
ルナの鉄道好きとしての行動は、私と同じだからだ。
ただし、作中のルナは車を持っていないので、私と同じような行動はしたくとも出来ない。しかし、昨日エレナから車を買ったと聞いたので、もし、「スペーシアクロスロード」の世界が続いているのならば、ルナは休日に私のような事をしているのかもしれない。
(だったら面白いな。)
私は思いながら、冷めてしまったミルクティーを飲み、昼食を終える。
トイレで小用を達して、東武日光線の線路際に行き、DE10が先頭で下今市に向かうSL大樹ふたら72号を撮影する。
今日のDE10は、青釜こと1109号機。
客車は青色客車で、遠目に見ると北海道を走った往年の急行列車に見える。
(中間の展望車がなぜか茶色なのがいただけないがな!)
私は苦笑いを浮かべながらシャッターを切ると、DE10が「ピィーッ!」とホイッスルを鳴らした。こんなところで普段は鳴らさないが、機関士が私の存在に気付いて鳴らしてくれたのだろうか?
撮影を終えると、またもS660に乗って、今度はロシア民謡「カチューシャ」を聞きながら、鬼怒川線の沿線に向かう。
雪と言うと、ラブソングを連想する奴が多いし、雪景色を歌ったラブソングは量販店のパンツの如く大量にあるが、私は雪というと、ロシアの大地を思い浮かべ、脳裏に流れるのはロシア民謡やロシアの軍歌だった。
新高徳駅近くの鬼怒川を渡る鉄橋の袂の撮影ポイントに到着する。
ここは「スペーシアクロスロード」の作中。第20話でルナがSL大樹の撮影をした撮影ポイントで、鬼怒川温泉に向かうSL大樹ふたら72号を撮影した後、国道へ戻る導線上で、撮影したばかりのSL大樹ふたら72号と並走するのだ。
準備をしていると、また雪が舞い出したので再度、雨雲レーダーを確認する。
小さな雪雲の欠片が通過中だったが、直ぐに抜けそうだ。
空を見上げると雪雲の隙間から青空が見えた。
汽笛の音が聞こえ、踏切警報器の音が聞こえて来た。
まもなく、SL大樹ふたら72号が来る。
私は自分のS660を主体に、その背景に見える鉄橋を行くSL大樹ふたら72号と言う構図で撮影する。
「ボォーッ!」とC11‐325号機が汽笛を鳴らしながら鉄橋を渡って行く。
シャッターを連続で切る。
列車が通過すると、S660に乗りエンジンをかけて並走作戦だ。
尚、この場所での並走は、運転席側が列車の方を向く。
運転席側はイエローを基調とし、キャラクターの顔の前にSL大樹のヘッドマークをあしらった物だ。
窓を開け、ロールトップの運転席側だけを空けてオープンカーの状態にしてゆっくりと進む。こうすることで、蒸気機関車のドラフト音が聞こえやすくなり、列車の位置を把握できると共に、後ろから一般車が来るかどうかの音も探りやすくなる。
前方に線路が見え、道が線路と並んだ時、バックミラーにC11‐325号機の姿が写った。ゆっくり、私は進み、真横に機関車が来たタイミングで手を振る。
「ボッ!」と短く汽笛を鳴らした。
一時停止で一旦停止して、再加速しながら、手を振りながら、横目で列車を見ると客車から乗客が手を振っているのが見えた。展望車と並ぶと、展望デッキのスピーカーから流れるアテンダントのアナウンスがかすかに聞こえた。
「あらっ?皆様!左側を―」と言う声が聞こえるあたり、捕捉されたらしい。
チラリと展望デッキを覗くと、そこに乗客の他、紺色の外套に紺色に黄色いラインが入った制帽を身に纏う男性アテンダントの姿。
(ルナ?)
私は一瞬驚いたが、3号車の横に行くもその姿は見えなくなった。
DE10が真横に来たタイミングで、再度、先頭のC11と並ぶため加速しながら、列車に手を振りながら、横目で列車の中を見ると、紺色の外套を身に纏うそのアテンダントは手を振りながら、私の事を見ている。
そして、2号車の進行方向側には、紅い着物の女性アテンダントの姿も見えた。
(アイルか?)と思ったが、加速して1号車と並ぶと石原が車内から手を振り返し、C11と並ぶと踏切の交差点。
ここで一時停止して、踏切が開くのを待つ。
鬼怒川温泉へ向かうSL大樹ふたら72号を見送って、踏切が開くと、国道に出て下今市へ向かった。
(ルナとアイルだったのかな?知らねえけど。)
私は先ほどの並走の時に見えた車内を思い出しながら思った。




