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今日からここは事故物件  作者: ゴルゴンゾーラ三国


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 ――母の機嫌がなんだか悪い。


 そう気が付いたのは、家についてからのことだった。図書館の帰り道は普通だったのに。わたし、何かしたっけ? この間のテストの点数も悪くなかったし……部屋も別に、汚くないよね。クローゼットは……まあ……。

 ……いくら何でも、もう少し片付けた方がいいかな? 物を一杯詰め込むとしても、ちゃんとしまうのと、何も考えず上から詰め込むのでは、感じる印象も違う。


 そう一度思ってしまうと、クローゼットの中がとてつもなく悲惨な光景に見えてくるから不思議だ。漫画を描いているノートを隠せて、そこが取り出しやすければいいや、と思っていたけれど、これは流石に……。

 今日は日中に祖父母の家に行くと言っていた。朝、母も一緒に家を出たとき、あまり明るい雰囲気じゃなかったし、何か祖父母と揉めたのかもしれないけど、それはそれとして、眉をひそめたくなる程度にはクローゼットの中、やばいもんな。


 よし、折角だし制服を着替えたら片付けるか、と意気込んでいると、ノックをされることもなく、扉が開く。

 立っているのは、母だった。


「……マ、ママ……?」


 不機嫌だな、というレベルではない。怒っている。腕を組んで、いらだたしげに、指を動かしている。

 小指から、人差し指まで、順々に。


「――なんで、勝手に出てるの」


「え?」


 出る、出るって……どこから?

 ――……家、から?


「な、何言ってるの、ママ。わたし、ちゃんと約束守ってるよ。さっきだって、鍵、ママが開け閉めしたでしょ?」


 勝手に家から出ない。

 鍵の開け閉めは母がする。いなければ父に頼む。


 昔からの、我が家の、というか、わたしと、母の間に交わされたルール。

 こっそり出てみたいなあ、と考えたことは一度や二度じゃない。でも、過去に一度やらかしてから、馬鹿みたいに怒られたから、もう二度とするものか、と誓った。実際、隠れて家の鍵を開け閉めしたことはない。


「出てるでしょ!」


 母が金切声を上げる。思わず肩が跳ねた。


「――なんで、()()()()のいうことが聞けないの!」


 ドン、と肩を強くどつかれる。母のものとは思えないくらい強い力。わたしは思わずその場にしりもちをついた。

 でも、わたしにのしかかってくる人は、母だ。それ以外の誰にも見えない。


「なんで、口答えするの! お前が、お前が余計なことをするから、お母さんは――」


「ま、ママ……、くる、し……」


 ギリギリと、母の手が、わたしの手に食い込む。


「余計なことを言って! それがなければ、お母さんだって、あんな目に合わなかったのに!」


 余計なこと? この家が変だって話? 

 でも、本当に音がするんだよ。聞こえてくるんだよ。母の気を引きたい嘘じゃないんだよ。

 ふ、と、一瞬、喉が緩む。今のうちに逃げようと思っても、苦しくて、すぐに起き上がれない。

目の前が、ちかちかする。


 ただ、息を吸いたい。


「――、ママ?」


 いつの間にか、母がロープを手に持っていた。父が、ホームセンターで買ってきたロープ。日曜大工が趣味の祖父が使うからと、代わりに買ってきて、来週末、遊びに行くときに届ける予定だった、ロープ。


「まって、ママ」


 首にロープが絡む。

 しまる。


「――全部、お前のせいなんだから」


 最期にわたしが見たのは、憎たらしげに、わたしを見下す母の姿で。

 意識も、自我も、ほとんどなくなった頃――遠くで、玄関の鍵が閉まる音が聞こえた気がした。

ご愛読ありがとうございました。

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