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高月くんと別れ、わたしは家に帰る。バスにギリギリ間に合ってよかった。無賃乗車ではあるけど、死んでるから許される。高月くんのところからわたしの家まで、車で行くような距離だから、流石に徒歩はキツい。
バスの車内から、外を見る。
黒い、もやのような人影が、今日も多い。成仏できない人って、意外といるんだなあ、なんて思う余裕もできた。慣れた、というか、あの女のせいで、この程度の幽霊なら怖くなくなったというか。
最初の頃はそこそこビビッてたのにね。
家の最寄りのバス停の、少し前で降りる人がいたので、その人と一緒に降りる。ちょっと歩くけど……このくらいならしょうがない。
マンションの駐車場につくと、丁度両親が帰宅したところのようだった。ラッキー、と思って近づこうとして、両親以外にも、父の車から降りる人がいて、わたしは思わず足を止める。
祖父母ではない。スーツを着た、女性だった。
父は何度もその女性に頭を下げている。そして、後部座席に座ってたらしい母を、肩を貸すような形で、下ろしていた。母の表情は暗く、手には血がにじんでいる様子だった。すでに辺りは暗くなっているけれど、丁度街灯の近くに父は車を止めているので、少しだけ見える。
父と同じように、母へと近づく女性が――こちらを見た。
わたしと目が合う。
明らかに、わたしが見えている。
というか――あの女性。高月くんの、おばさんじゃ……?
「マ、ママ……?」
わたしは高月くんのおばさんを警戒しながらも、母に近づく。何かあったのかは、一目瞭然だ。
「――どうかしましたか?」
父が高月さんのおばさんに声をかける。彼女は、ゆっくりと、父の方を向いた。
「……いえ。……奥さん、大丈夫、娘さんもきっと、見守ってくれていますよ」
「――……あ、あぁ……ッ」
母がその場にへたりこみ、顔を抑え、泣き始める。高月さんのおばさんが、優しい手つきで母の肩を撫でた。
状況が分からないけれど、父が、「すみません、何度も……」と頭を下げているところを見ると、家に帰るまでに、同じようなことがあったのかな……? 祖父母の家と高月くんの家は近いし、何か揉めているところに、高月くんのおばさんが通りかかって……というところかな?
この状態の母を一人にしておくことはできないし、かといって、祖父母が付き添ってくれたところで、今度は祖父母が家に帰ることもできない。確か、祖父は去年、車の免許を返納していたはず。そして、祖母は元々免許を持っていない。
祖父母宅に泊まるか、祖父母が我が家に泊まるかすればいいのに、とちょっと思ったけれど、そうなっていないということは、両親が帰ってくるまでに何かがあったのだろう。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
「うぁ、ああっ、ああぁッ!」
優しく母をなだめる高月さんのおばさんと、対照的にただ泣き続ける母。
母の泣き声が、駐車場に響いていた。




