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作ったシチューは高月くんが持参してくれたタッパーに詰める。捨てるわけにはいかないし、かといって、放置することもできない。家に帰ったら謎のシチューがあるとか、普通に警察案件だし。ここまでこそこそやった意味がない。
調理器具も洗って、元の位置に戻す。ちなみに、洗った調理器具を拭くふきんも高月くんに用意してもらいました。本当に高月くん様々だよ……。二度と足を向けて寝られないね。死んでるからもう寝ないけど。
そうして全てを終わらせ、わたしたちは、高月家でシチューを食べていた。あの子が作ったシチュー、そこそこあって、食べきれないと高月くんが言うので。
一緒に処理するのも、食べる準備もわたしがします。お世話になりっぱなしだもん。
「――……む」
食べる準備をしていると、高月くんがスマホを見て、小さくつぶやいた。
「どしたん?」
「伯母からの頼りだ。今宵、二十時頃にこちらへ着くと」
「へー」と適当に返事をしながら、ふと思い出す。
「そういえば、高月くんって、その中二病喋り、やる人とやらない人いるよね? 学校だと中二病っぽく話してるけど、タクシーの運転手とか、コンビニ店員とか……後はうちのママとパパにも普通だったじゃん? 『見えてないふり』をするなら、平等に中二病言で話してないと駄目じゃない?」
「…………」
深い意味はなく、思い出したから聞こう、くらいのノリだったのだが、高月くんは黙ってしまった。
しばらく何も言わなかったけれど、ようやく絞り出した答えは、「だって恥ずかしい……」というものだった。
「命には代えられないから『こう』だけど、普通に恥ずかしいし……」
高月くんはわたしの顔を見ず、スマホに視線を落としながらぼやく。けれど、高月くんはスマホはいじらないし、耳まで真っ赤。
何もできない、変なのが寄ってきても困る。だからこそ、高月くんは中二病っぽく話していたらしいけど……普通に恥ずかしいんだ、アレ。
「学校だと、結構ノリノリに見えたけど」
わたしは高月くんの前に、シチューをよそったお皿を置きながら、言う。実際、ちょっと楽しそうなところ、あったよね?
「う、うるさい!」
高月くんも思い当たるところがあるのか、分かりやすく噛みついてきた。
高月くんの向かいの席にわたしもお皿を置いて座る。
「はいはい、食べようね~。いただきまーす」
子供にあげるお菓子を食べたときのように、ぼんやりとした味。でも、不思議とまずいとは思わなかった。
一口、二口、と食べ進めていると、高月くんが、ふと、手を止める。
幽霊が作ったもの、食べたら駄目だったのかな、と思っていたが――どうも、様子が違う。高月くんの目が、少しうるんでいた。
「……志田、ありがとう」
こちらを見る高月くんの表情は、すがすがしいもので、先ほどまでとは、全然違う。
「今まで、見えるだけで、何もできなかったけど。志田のおかげで、僕にも何かできるんだな、って思えたよ」
あの子は、母親に料理を作ってあげたいという思いを叶えて成仏した。
そして、その子が成仏していなくなったことで、わたしの、あの家から幽霊を消すと言う目的も果たされた。
二人分の、死者の願いが叶ったのだ。
「本当に、ありがとう」
そういう高月くんの笑顔を見て、わたしも、良かったな、と思う。何もできない、と自分のことを言ったときの彼の表情は、本当に酷いものだったから。
――……。
「わたしこそ、ありがとうだよ。――……それから、ごめんね」
「……なんで謝るの? 普通、お礼を言うところじゃない?」
呆れたように、高月くんは笑う。
んー。
「内緒!」




