表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日からここは事故物件  作者: ゴルゴンゾーラ三国


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/70

65

 子供の手つきは、中々に手慣れていた。動きそのものがのろのろとしているので、調理スピードは決して速くないんだけど、それでも、着実に料理はでき上がっていく。

 鍋の中で炒めた食材が、ほどほどに火が通ったであろうところで、子供が、じっとこちらを見つめてきた。


「……? ……ああ、煮込む用の水か」


 椅子の上に膝立ちになったままの状態では、移動することもままならない。キャスター付きの椅子ならまた話は違うんだろうけど、あいにく普通の椅子である。


「……えーっと……。……ごめん、水道水で!」


 調理用の水がないわけじゃないんだけど、シチューにするくらい水を使ってしまったらバレる気がする。まあ、水道水が飲める国なわけだし。許してくれ。

 水道水を入れて鍋を戻すと、子供はじっとそれを見る。……沸騰待ちだよね? 水道水入れやがって、っていう睨みじゃないよね?


 あとは煮込んで、ルゥを入れて、完成だ。

 料理は終わりに近づいている。


 問題は……母親がすでにいないと言うことだけ。

 ……母親が帰ってくるまで粘られたらどうしようもない。


 ――でも、あの状態の母親と遭遇したところで、いい結果になるとも思わないんだよなあ。

 そんなことを考えながら、わたしはつい、喉元を撫でる。わたしが死んだときに首についた後と、高月くんの家であの女の霊に首を絞められたときについた爪の穴。二つの傷跡の感触が、わたしの指先に伝わる。


「……あ、れ?」


 煮込み待ちをじっとしていると、なんだか子供が揺らいだような気がして、わたしは思わず目をこすった。もう一度、しっかりと子供を見ると、今度はちゃんといる。椅子に膝立ちのまま、食材が煮込まれる鍋を見ている。

 それでも、なんとなく、子供が『薄くなった』と感じた。

 これが成仏する、ということなのだろうか。


「お、ぁ、ああ、んんん」


 子供が、口を開く。

 音のような、言葉になっていない、声。

 ずっと気味の悪い、うめき声だと思っていたけれど……。

 さっき、ご飯、と喋った。人間じゃない生物が、人間の話し声に似せたように話した、なんとも曖昧な物言いだったけれど、本人は、ちゃんと話しているつもりだったら。

 これも、何かの単語なのだろうか。


「お、ぁ、ああ、んんん」


 子供が、もう一回、言う。

 そう考えると、確かに、何か言葉に聞こえてくるような――。


「……おかあ、さん?」


 そう聞こえた気がして、思わずつぶやくと、子供が振り返った。

 餓死をしたんだ、と思えるほど、がりがりにやせ細っていて。顔のパーツの比率は間違いなく子供なのに、妙に老けている印象を受ける、歪な子。目元は暗く、影になって真っ暗なはずなのに――。

 瞳がある場所に、ほんの少しだけ、光が宿っているような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ