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キッチンに戻ると、子供は包丁とまな板を出し、作業台の前に立っていた。
「あー……、椅子! 椅子持ってくるから待ってて」
子供とキッチンの高さが釣り合っていないのは一目両全だった。背伸びをしたところでギリギリ作業ができるかどうか、と言ったところだろうか。危なっかしすぎる。
わたしたちは怪我をしたところでもう血も流れないけれど、普通にやりにくそうだし。わたしはリビングから、ダイニングテーブルのところから、わたしが生前使っていた椅子を持ってくる。わたしの家に踏み台になるようなものはない。
「し、失礼しまーす……」
わたしは子供の脇に手を差し入れ、椅子の上に乗せる。襲ってこないと思っていても、触るのは普通に怖い。子供を持ち上げることもそうそうないし。
おっかなびっくりのわたしとは裏腹に、子供はされるがままだった。
「…………」
子供は思った以上に軽かった。いや、まあ、このくらいの子供を持ったことってないから、比較対象がないのはそうなんだけど……もっとずっしり来るものだとばかり。ひょい、と持ち上げられるなんて思ないじゃん。わたし、体を鍛えているわけでもないんだから。本当に餓死で死んだんだなあ、この子……。
「……逆に高いか?」
椅子の上に立ったら流石に今度は作業台の方が低くなってしまう。
しかし、子供は黙って膝立ちになった。……このくらいなら、普通に料理できるか。
「えーっと……じゃあ、こちら、食材です」
わたしはビニール袋の中から、高月くんが買ってきてくれた食品を一つずつ出して、作業台の、まな板が置かれていない場所へと並べていく。
全て並べ終わると、子供がこちらを見上げてきた。「あ、えと、どうぞ。ここの、自由に使ってください」というと、また、ゆっくりと、食材の方を見た。
「あ、鍋……鍋ね。これでいいか」
わたしはシンク下に収納してある鍋を取り、コンロへと置く。他……は、特にないよね? シチューは食材を切って、炒めて、水入れて、煮込んで、味付けする……だけだよね。あ、ブロッコリーとかも入れる派だった? でも、今から買いに行けないからそこは我慢してもらって……。
しばらく色々と見ていた子供だったけれど、彼女は、ゆっくりと、包丁を持ち、握った。
……ホラー映画のキービジュアルを飾りそうな、いかにもな幽霊が、ゆっくりとはいえ黙々と料理を作っている光景って、なんだかすごいシュールだな……。包丁持って襲ってきそうな見た目して、切ってるのは生きた人間じゃなくて、近所のスーパーで買ってきた鶏モモ肉だもんな……。




