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死角にいたのに。そこからは見えないはずなのに。相手はどこにいるのか分からないけれど、わざわざ電話をかけてきたってことは、そこまで近くにいないのだろう。すぐに駆け付けられる場所にいるならば、きっと直接来るだろうから。
それほどまでに離れている距離でも、ほんの数分、テレビ電話をしただけで分かってしまうものなのか。
わたしが思わず立ち上がってしまうのと、「とっ、友達だから危なくないよ!」と慌てたように高月くんが弁明するのは、ほとんど同時だった。
『友達……?』
「そ、そう! ほら、最近、クラスメイトの通夜があって……、あ、タクシー代! 斎場に行くのに、出してもらったでしょ!」
高月くんの言葉に、『ああ、そういえばそんなこともあったね』と女性は納得したような声を上げた。
『まあ……次太郎がそういうのなら、そこまで危険でもないか。それじゃあ、明後日の夜……、日付が変わる前にはなんとか一回帰るから、それまで学校は休みなさい。風邪をひいているなら丁度いいでしょ? 御札、またあげるから』
「……! ありがとう!」
『私が帰るまで、家から出ないように。それじゃあ、気を付けて休むのよ。――お友達も、次太郎に危害を加えないようにね』
もし、ちょっとでも高月くんに何かあれば、わたしはあっという間に消滅させられてしまうだろうという確信が持てるほど、怖い声で釘を刺された。思わず、「はいっ」と返事をしてしまったが、高月くんが電話を切ったので、届いたかどうかは分からない。
「御札、おばさんが新しいのくれるって。……使ったら、連絡が来るとは思わなかった。いつもは身代わり人形でなんとかなってたから……」
いくら幽霊を退治しているところを見たって、目の前で起きたこと以外も感知できるとは、流石に思わないよね。
「志田、これであの霊も――」
「あ、うん、ええと……そのことなんだけど」
高月くんのおばさんの御札の効果は本物だ。だから、あの子も、御札を使えばきっとすぐに消えるだろう。
ただ、わたしには一つ、思うことがあって。
「もしかしたら、あの子の未練はこれかも、って思うものがあって……」
しかし、これを手伝うには、高月くんの助力は必須。それに、高月くんのおばさんが帰ってくるのは明後日の夜――つまりは金曜日の夜。土日は両親が家にいる可能性が高いから、避けるとして、そうすると、結構先のことになってしまう。なるべく早くにことを済ませたいわたしとしては、高月くんに、家からでないように、という高月くんのおばさんからの言いつけを破らせてしまう。
それでも、女の霊のように強制的に消滅させられるよりは、成仏の方がいいんじゃないか、と考えちゃうわたしもいて。
それを踏まえたうえで、高月くんに相談して返ってきた言葉は――。
「――成程。面白い。試す価値はある」
ほとんど即答に近い、肯定だった。




