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高月くんが見せてくれたのは、十四年前の古い動画だ。三鷺市女児虐待死事件の判決が出たことで、再度ニュースになったらしい。近所の人らしき人物がインタビューを受けているシーンだ。
『――ちゃんですか? いい子ですよ。疲れたお母さんのために料理をするんだって調理実習を頑張ってたらしくて、ねえ? あんな純粋な子なのに、可哀想に……』
胸から下しか映ってないから断言はできないが、おそらくは近所の女性と、その子供がインタビューを受けているのだろう。この感じからして、子供はあの子供の霊の、生前の同級生の可能性もある。
時折、女性に話しかけられた子供が、相槌を打つようにうなずいているのが、影と体の動きで分かる。
「事件が古いからか、あまり動画が上がっていないな……」
動画投稿サイトへの動画が活発になったのは、ここ十年程度のことだ。それより前の動画は中々見つからない。
結果的に見つかったのは、最初の一本ふくめて、三本ほど。その中で語られる子供は、どれも『いい子』という評価が多かった。誰一人として、悪く言っている人はいない。本当にいい子だったんだろう。
そんな子が、包丁を持ち出して、一体何に使おうと――……、あれ、調理実習?
事故物件に住む、殺された幽霊だから。
そう思って、無意識に、何か別のことに使うために、特別な意思表示のために包丁を持ち出そうとしたと決めつけていたけど――そもそも、包丁って、調理器具、だよね?
――ジャッジャーン!
「うわぁッ!?」
物凄い音量で高月くんのスマホが鳴って、わたしは思わず声を上げた。
着信がかかってきたようで、先ほどまで表示されていた動画サイトではなく、画面が着信に切り替わっていた。
デフォルトの着信音ではなく、クラシックの一番盛り上がる部分を切り取って使っているみたいだから、余計に大きく感じる。
「音大きすぎでしょ……!」
文句を言わざるを得なかった。もうちょっとでまとまりそうだった考えが、全部どこかへと吹っ飛んでしまった気分だ。
しかし、わたしへと何も言わず、高月くんは電話に出る。ビデオ通話なのか、高月くんは耳元へとスマホを持って行かず、そのまま電話を取る。……場所的に、ちょっと移動した方がいいか。ここにいると写り込んじゃうかも。
『もしもし、次太郎?』
電話の相手は女性のようだった。ハスキー、といえばいいのか、聞き取りにくそうな声質をしているように聞こえるのに、不思議と耳にはっきりと入ってくる。活舌がいいのかな。
「――伯母さん、どうしたの」
……お、おばさん!?




