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「……うそ」
わたしの口からこぼれた声は、自分でも笑っちゃうくらい、情けないものだった。
――生きている頃は、高月くんに特別な力があるなんて、みじんも信じていなかった。
高校生にもなって、中二病とか痛々しいな、と思いつつ、割と様になっているのがちょっと面白い、くらいにしか思っていなかった。
でも、わたしの通夜で、本当に幽霊が見えるんだ、って知ったとき。高月くんの言っていることは真実で、『人ならざるモノ』が見えるし、『悪しきものを退ける力』があるんだって、凄い人だったんだ、って思ったのに。
高月くんが、わたしに左手を差し出してくる。というか、わたしの腕を掴もうとしてくる。
反射的に逃げようとしたが、高月君の方が少し早かった。
するり、とわたしの腕を、高月くんの左腕がすり抜ける。
痛くもないし、かゆくもない。不快さも、違和感も、何もない。
何度も、何度も、死んでから他人をすり抜けてしまったあの感覚と、何も変わらない。特別なことはない。
今度は、わたしが高月くんの左腕を、つつこうと指を出した。――当然、ただ、すり抜けるだけだ。
わたしに、なんの影響もない。
「凄いのは、伯母さんだけだ。僕の親戚は、結構見える人とか、感じる人とか、多くて。だから、小学生の頃とかは、僕にも何かできるんじゃないかって、思ってた。全然――そんなこと、なかったけど」
そう言って、高月くんはまくった袖を、戻した。ずっと左手に包帯をしていた高月くんを見てきたから、両手とも素手なのは、ちょっと違和感がある。
「幽霊に、『見える』のがバレると、寄ってくるんだ。現状を何とかしてほしい、って、思うんだろうね」
「そん――」
そんなことないでしょ、と言おうとして、わたしは口を閉じた。
家に幽霊が住み着いているとしって、退治してもらおうと思って、一番に高月くんを頼ったのは誰だ。わたしだよ。
困ったときに頼れるのは、見える人しかいない。
それを一番実感してきたのは、わたしじゃないか。
「だから、見えないふりをしようとしたんだ。まあ、見えないものを見えるふりをするより、その逆の方が難しかったんだけどね。急に目の前に出られたら、反射的にどうしてもびっくりしちゃうし」
確かに、言われてみれば、そうだったかも。
わたしの漫画ノートを、家から持ち出してもらったとき。部屋を出る際、目の前に子供の幽霊がいて――高月くんは、分かりやすく反応していた。
いや、それよりも、前。
わたしが死んで、高月くんを頼ろうって通夜の式場で声をかけたとき。
彼は、何よりも分かりやすく、露骨に反応を見せていた。




