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「……え、もしかして、実はまだ、あの幽霊、退治されてない的な……?」
高月くんの表情から、最悪の事態を想像してしまった。どこかにまだいる、と考えるだけで恐ろしい。もう二度と会いたくないのに。
しかし、高月くんは首を横に、力なく振る。
「伯母の作る……、生み出す、生成するものは、全部、全て、ほんもの……、力、強き力があるもので……」
高月くんが、言葉を探しながらつぶやく。中二病っぽいワードを探している様子だったけど、からかおうという気にもならない。
あまりにも、高月くんの声が、弱々しかったからだ。
「――……ごめん」
高月くんが、頭を下げる。座った状態で深くお辞儀をするものだから、ほとんど土下座みたいな形になった。
「あ、頭上げてよ、どうしたの?」
慌てて彼の肩に手を置こうとして、そのままわたしの指先がすり抜ける。ああもう、何回やっても慣れないな、これ!
「本当は――……本当は、これ、あの子供の霊に使うか、迷ってたんだ」
「――え?」
高月くんは、頭を下げたまま、話を続ける。
「この御札は、伯母さんが作った御札で、大抵の幽霊は祓うことができるんだ。人が死んで成った幽霊なら通用する。だから、あの女の幽霊も、もうどこにもいない。この札が、浄化してくれたから」
「でも」と言って、高月くんは一度黙る。
わたしも、続きを催促することなく、ただ、待った。
そして――ようやく、高月くんが口を開く。
「一枚しかないんだ、これ」
高月くんの言葉に、わたしは何かを言うことができなかった。
一枚しかない貴重な御札を使って助けてくれてありがとう、とか。
もしかして、それって高月くん自身を守るための大事なものだったんじゃないの、とか。
迷うくらいなら、簡単に手に入るものじゃないんだよね、とか。
――今、それを使ったら、あの子供の霊、除霊できないじゃん、とか。
いろんな考えが、思い浮かんでは、頭の中をぐるぐるとめぐる。
何をどう伝えようとしても、本音を隠そうとした声音にしかならないような気がして、口を開いては、また閉じる。
ず、と鼻をすする、高月くんの音が静かな部屋に響く。単純に鼻水が出そうになったからなのか、それとも、泣きそうになっているのか、わたしには分からなかった。
「で、でも、ほら! 高月くんだってさ、除霊できるんだよね? クラスでよく言ってたじゃん! 『我が左腕に封印されし力が~』みたいなやつ!」
おばさんが霊能者でこんな実用的な身代わり人形やお札を作れるのなら、霊感のある高月くんだって、それなりに力があるのだろう。
あの女の幽霊は高月くんよりは力が強かったから、おばさんの御札を借りなきゃいけなかっただけで、わたしの家の幽霊だったら高月くんでもなんとかできるかもしれない。
わたしたちでも対処法はあるっていっていたし、きっと高月くんにとって大したことない幽霊で……。
「……できない」
「――え?」
「僕の左腕に、力なんてない。僕は、ただ、幽霊が見えるだけなんだ」
高月くんは、ざ、と左腕の袖をまくり上げ、一瞬ためらいを見せたが、覚悟を決めたように右手を握りしめ、包帯をほどく。
その包帯の下には、わたしの腕と変わらないような、普通の、人間の腕があるだけだった。




