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わたしが部屋の中を確認し終えてから一時間くらいで高月くんは目を覚ました。
ベットから布団を取り、かぶせておいてよかった。風邪なのに、一時間もそのまま床で寝るようなことがあったら、本当に入院コースだよ。
目を覚ましても、まだぼんやりとしている高月くん。手をぎゅっと握り閉めたからか、彼の手の中で、黒い紙がぼろぼろと崩れ落ちた。
「……ゆめ」
「夢じゃないよ」
ぼそっとつぶやかれた高月くんの言葉に、わたしは思わず声をかける。わたしの声に驚いたらしい高月くんは、素早い動きで起き上がっていた。まだわたしがいると思っていなかったんだろうか。流石にこの状況で置いて帰るほど薄情じゃないけど。一体、どこからどこまでが夢だと思っていたのやら。
「体調はどう」
「あ、ああ……。山場は超えた、と思う」
体調が悪そうな様子は変わらずだけれど、薬が効いているのか、あの女が襲撃してくる前のぽやぽやとした感じはない。たった一時間とは言え、しっかり寝たのがよかったのかな。……床だけど。
でも、とにかくよかった、死ななくて。
「部屋の方は片付けたよ。……片付けた、っていっても、あんまり大したことできなかったけど」
高月くんが寝ている間に、落ちていた雑貨を全てダイニングテーブルの上に置き、割れた窓ガラスも一か所にまとめて置いた。ガラスがあれだけ派手に散乱していたのだから、本当は掃除機をかけたり、割れた窓に段ボールとガムテープで補強とかできたらよかったのかもしれないけれど、いずれもこの家のどこにあるか分からないから、本当に最低限のことしかしていない。いくら死んでるからって、家を漁るわけにもいかないし。自分の家ならまだしも、幽霊が見える一家の他人の家を勝手にいじるのは……生前にやるのと何も変わらないと思うので。
「それにしてもすごいね。身代わり人形とか、御札とか、本当にあるんだ。インチキとかヤラセ、もしくは漫画にしかないと思ってた」
「え……」
高月くんが驚いたように、自分の手を見る。わたしが彼の手元を指さしたからだろう。
彼が黒い紙を持っていた方の手を開くと、彼の手の中に残っていたのであろう、紙の残骸が、はらはらと床へ落ちる。
慌てたようにそれをかき集めるものだから、余計に紙だったものは細かくなってしまう。
あの女の幽霊がいなくなったというのに、高月くんの表情は浮かない。どころか、身代わり人形が叩きつけられたらしい音が聞こえてきたときくらい、酷い顔をしていた。




