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わたしは気合を入れて、立ち上がる。高月くんがこうなってしまったら、もう本当に彼を頼ることはできない。今はここに女の霊はいないけど、もしも一瞬で姿を消しただけで、家に潜んでいるなら、今度はわたしが高月くんを守らないと。
部屋の中には――いない、か。
一応、わたしたちみたいにベッド下へと隠れていないか確認するけど、ベッドの下には何もない。
「……あ、ベッドには運べないけど、布団は運べるか」
何もないよりはマシだと思う。
高月くんに布団をかぶせてから、わたしはゆっくりと、扉の隙間から半身を出して、部屋の外をうかがう。
リビングはもちろん、家の中は静まり返っていて、物音ひとつしない。あの独特な爪で叩く音はもちろん、足音もない。
すぐに扉を閉められるように、ドアノブを握ったまま部屋の外へと出る。
「…………」
少し待ってみても、どこかの影から女の幽霊が出てくることはない。
わたしは足音を立てないよう、慎重に歩きながら、リビングの中を歩く。飾ってあったいくつかの雑貨が床に落とされ、散乱している。多分、壊れているものはない、と思う……けど、正直一つひとつをしっかり観察して記憶していたわけじゃないから、断言はできない。
リビングの大窓の一か所が割れていて、ガラスが飛び散っていた。ここからあの女の霊が家に忍び込んできたとみて間違いないだろう。……わたしはガラス踏んでも、ちょっと痛いな……くらいで大丈夫だけど、高月くんは怪我するかもだから、あとで伝えておかないと。
玄関の方に行ってみても、そこには誰もいなかった。当然、ドアノブだって勝手に動いたりしていない。
あの女の霊がいたのが、まるで嘘のように静まり返っている。……この惨状を見れば、夢でも幻覚でもなかったのが一目瞭然ではあるけれど。
少し大き目な二人掛けのダイニングテーブルの、椅子が一脚倒れていた。椅子が倒れているのは、音が聞こえてきたから分かっていたけど……。
「……うわ」
その近くに、人形が落ちている。相当強い力で握りしめたのか、ちょっと形が変わって、服もしわが寄っている。
こんな力で、いや、もしかしたらそれ以上の強さで首を絞められていたかと思うとぞっとする。比喩や冗談ではなく、物理的に首が飛んでいたかもしれない。
「――……あ」
人形をじっと見ていて、ふと気が付く。
もしかして、高月くんが持っていたあの黒い紙も、この身代わり人形みたいに、幽霊に対抗するアイテムだったりするのかな。紙っぽかったし……御札とか? 御札って、何か物に貼って封印するイメージあるから、本当にそうかは分からないけど、それっぽくはある。
高月くんが女の幽霊に対して伸ばしていた手の方に、黒い紙が握られていた。
……ということは、本当に女の幽霊は消えたのかも。なら、もう、とりあえずは大丈夫、なのかな……?




