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見つかった、と思った次の瞬間には、ベッドの下から引きずり出されていた。服が引っ張られ、首が締まる。もう息ができなくたってなんの問題もないはずなのに、恐怖で全身がこわばる。
喉が熱い。
首についた、首を絞めたときの跡が、異常なまでに熱を持っている気がした。
なんとか服の襟と首元の間に手を入れて、何とか隙間を作り出す。
身をよじって女から逃れようとするが、全然力が敵わない。一般的な女性の力ではありえないほどだ。びくともしない。
先ほど、腕を掴まれたときのことを思い出す。あの力で引きずり出され、服を掴まれているのなら、逃げ出すことは簡単じゃないだろう。
何かないか。そう思って、辺りを見回すが、床に物は落ちていない。ちゃんと整頓されている部屋だ。男子の部屋って、汚いもんじゃないのか……!
わたしがじたばたしていると、女は、のぞき込むように、わたしを見下ろしていた。
見開いた目は充血していて、それとは裏腹に、絵具を塗ったかのように肌の色が土気色だ。まるで見本のような女の幽霊のいで立ちなのに、髪が茶色のショートカットなのが、妙に浮いていた。
でも、それが、この女性は、ホラー映画に出てくる登場人物なのではなく、今、ここにいる、その辺で死んだ幽霊で、わたしの身の回りでも見かけるような『誰か』である、現実感を強めていた。
ふ、と服が引っ張られる感覚が緩む。その一瞬を狙って、女から逃げようとしたが、駄目だった。
あっという間に女の手が、わたしの首にかかる。首を絞められる圧迫感と、爪が食い込む鋭い痛み。
女は片腕しかないのに、両腕で首を絞められているのではと錯覚するほど、強い圧がかかる。
「――ッ」
声すらまともにあげることができず、足をばたつかせることしかできない。その足が、近くにあった棚にぶつかり、何かが倒れるような音が聞こえた気がした。
このまま首を絞められ続けたら。いや、いっそ、首がもげてしまうかもしれない。わたしが、この女の腕を、扉で押し切ったように。
女の腕は、片腕のまま。わたしがさっき、扉で押し切ったから。そして、その腕は、霧散して、消えた。
じゃあ、わたしの首と胴体が離れたら― ―わたしは、どうなってしまうの?
体が消えて、頭だけ残るのか。
頭が消えて、体だけ残るのか。
それとも――両方とも霧散して、本当に、『無』となってしまうのか。
「い、ぁ――嫌――ッ!」
死にたくない。
消えたくない。
もっと、ここにいたい。
涙腺が壊れたかのように、ぼろぼろと涙があふれてくる。
視界が涙でぼやけ、意識が遠のいて暗くなってくる。
もう、本当に駄目なのか。
そう思った瞬間――ふっ、と首にかかる女の手が、消えた。




