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スニーカーを履いた靴が、高月くんの部屋へと入ってくる。白いスニーカーには、光の加減で赤っぽくも見える茶色いシミが、べったりとついている。最初は白いスニーカーではなく、茶色のスニーカーだと思ったくらいだ。
……足がはっきりと分かる。ということは、少なくとも、わたしの家に居ついている子供の霊よりは、もっと、強い恨みがある霊ということだ。靴を履いている、ということは、外で命を落としたのだろうか。しかも、出血を伴うような。わたし自身は、室内で死んだから、靴下だし。服も制服で、ずっと変わらないままだから、死んだときの格好が続くのだと思う。
足は、クローゼットの前へと進む。ずりずりと、片足を引きずるような歩き方。よく見れば、引きずっているほうの足は、なんだか足首の向きがおかしいような気がした。あれ、折れてる……? 死ぬときに足が折れる……事故死かな。
そして、その足越しに、クローゼットの扉が開かれたのが分かる。そりゃあ、この部屋で一番隠れやすそうなところはそこだから、最初に開けるのも分かる。
……となると、ここもすぐに見つかってしまうかも。
高月くんの息が、背後から幽かに聞こえる。口を手で押さえているのか、吐息が細い。外から聞こえてくる音にかき消されてしまうような大きさのはずだけれど、すぐ近くにいるわたしには、ハッキリと聞こえて、いつあの幽霊に気が付かれてしまうか、気が気でない。
クローゼットにわたしたちがいないことを確認したらしい女は、ずりずりと、また、部屋の中を歩いている。
そのまま部屋を出て行ってくれ、というわたしの願いとは裏腹に、こちらへと近づいてくる。そして、そのまま、床へと落ちたノートを拾った。拾った手は、オーバル型の赤い爪を持っている。間違いない、あの女の霊だ。ノートはベッドの枕元、わたしたちが隠れている体勢からは足元になってしまうが、女の手元がはっきりと見える。
ノートだけが、不自然に落ちていたから、勝手に落ちたものだと勘違いしたのかも。
しばらくして、ばさり、と乱暴にノートが床に落ちる。叩きつける感じはなくて、そのままパッと手を離したような落下の仕方だった。
再び、女の霊の足が動き出す。引きずるような、歩き方。
このまま部屋の外へ出て行ってくれるか、それとも、まだ部屋の中をうろつくか。
そう思った、瞬間。
「――ッ、あ」
先ほどまで足しかなかったはずなのに。一度まばたきをし、目を開いたときには、這いつくばって、女がベッド下をのぞき込んでいた。
目が、合った。




