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わたしの部屋から持ちだしてもらった、漫画の描かれたノート。業界一、二、を争うくらいの、有名企業のノートで、どこでも手に入るようなノートだから、わたしのノートとは限らないけど……。中身を見るまで何が描かれているか分からないように、表紙にはあえて目印をつけていないから、余計に、わたしのノートではなく、高月くんの私物の可能性も高いけど……。
わたしが途中で黙ったのに気が付いた高月くんが、のろのろと、こちらを見る。そして、わたしの視線がヘッドボードの棚上のノートにある気が付くと、サッとノートを取り、枕の下へと差し込んだ。
体調が優れないからか、動きは鈍いけど、明らかにやましいものを隠すときの行動だ。
高月くんが勉強に使っているノートなら、わざわざ動かす必要もないだろう。
……それとも、中二病キャラよろしく、中二病設定が書き連ねたノートとかなのかな。
「……やっぱり、わたしのノート?」
「だったら、なんだというのだ」
あ、ちょっと口調戻った。
というか、本当にわたしのノートなんだ。枕元に置くくらい、何度も読み返してくれたりとかしたのかな。ちょっと嬉しい。
本来なら、誰にも見られず終わるはずの漫画は、少しだけ、日の目を浴びることができたのだ。わたしだけしか知らない漫画で終わらなくて、よかっ――。
「わるかったな、かぜをひくまで、このまんがをよんでいて」
「……えっ?」
じんわりと、わたしの漫画に読者が付いたことを喜んでいると、からかわれたと勘違いしたのか、勝手に白状し始めた。
なんでも、お風呂上りにわたしの漫画を読んでいて、そのまま寝落ちし、風邪をひいたらしい。髪は濡れたままだし、布団をちゃんと被ったわけでもないので、がっつり体調を崩すことになったのだという。
「へぇ……へ~ぇ……」
思わず、にまにまと笑いながら、そんな声が洩れる。前言撤回。ちょっと嬉しい、どころではない。かなり嬉しい。
まあ、それはそれとして、体調管理はしっかりしたほうがいいと思うけど。
「うるさい」
高月くんが枕を投げてくる。体調不良の高月くんが放った枕は、わたしのところへと届く前に落ちた。というか、高月くんの手を離れた瞬間、そのまま下へと落ちた。
「あんまり無理しない方がいいよ? 体、辛いんでしょ」
「うぅ……」
熱が上がったのが、さっきより、もっとぐずぐずになっている。大丈夫か、これ。
一緒に住んでいるというおばさんが、何時に帰ってくるか聞いたほうがいいかも。外にいる女の幽霊を抜きにしても、この高月くんを長時間一人にするのは危ない気がする。
「あのさ、おばさんって――」
――ガシャン!
高月くんに尋ねようとした瞬間。
ガラスが割れる音が、扉の向こうから聞こえてきた。




