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高月くんの部屋は、普通の部屋だった。……いや、男の子の部屋って、入ったことがないから、普通って表現が正しいのか分からないけど……。でも、高月くんの部屋は、よく分からない魔法陣とか、骨格標本とか、そういうのがずらっと並んでるイメージだった。普段の学校の姿からは想像できない部屋だ。
高月くんがベッドに腰を下ろす。どこに座ったらいいか分からなかったけど、とりあえず、ラグが敷いてある床に座る。
「とりあえず……すこし、ようすみ」
そう言う高月くんは、片手で頭を抱えていた。いつもの中二病の決めポーズではなく、純粋に頭痛がしんどいんだな、と分かる格好だ。
横になった方がいいんだろうな、と思うけれど、この状況で休んで、とは流石に言えない。逃げるにしても、まだ座っている方が逃げやすそうだし。
「さっきの人形って……、身代わり人形、みたいな?」
「そう。……おばさんが、つくった」
少し言いずらそうにしながらも、高月くんは、つぶやいた。
「おばさんも、霊能者とか? すごいね、高月家」
高月くんも見える人で、おばさんは祓える人。現実にいるんだ、こんな一族。わたし自身が幽霊にならなかったら信じられなかったけれど、ここまでくれば流石に、嘘じゃん、とはならない。
……もしかして、さっき、おびえているような表情とは裏腹に、人形を用意するのが妙に手慣れているのは、これが初めてではないということなのだろうか。
わたしの考えは当たっていたようで、「……あのにんぎょう、つよいから。こんかいも、だいじょうぶ、だとおもう」と高月くんが言う。
あの女の霊に限らず、こうやって攻撃的な幽霊がこの家に来るのは初めてではないようで、そのたびに、ああやって人形を使って、やり過ごしていたそうだ。
そんな高月くんが普通にしれっと学校に通い続けていたのだから、その効果は保証されているようなもの。
ずっと気が張っていたけれど、少しだけ安心できた。気が緩んだからか、また腕が痛くなってきた気がする。
腕を見れば、女の霊に爪を立てられた場所がくっきりと爪の形に穴が開いていた。痛みはあるが、やっぱり血は出ていない。死んでるからかな。
……あれ、もしかして、死後の怪我って、治らない……?
新陳代謝もなにもあったものじゃないしな。うわ、嫌だな。痛みの方は、放置していれば消えるかもしれないけど、明らかに人の手がつかんだ形に、爪の跡が並んでるのは気持ちが悪い。
「これってさ……」
落ち着かない気分で掴まれたところをさすりながら、高月くんにこの跡が消えるか聞こうと彼の方を見ると――ふと、彼のベッドのヘッドボードの棚上に、わたしのノートが置いてあるのが目に入った。




