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は、と一息ついたのも束の間。握っていたドアノブに、強い力がかかり、わたしは慌てて再び手に力をこめる。
両手でドアノブを抑える。早く鍵を閉めないと。ドアノブが壊れる。あの女が入ってきてしまう。
早く、早く鍵を――。
頭の中では分かっているのに、鍵に伸ばす手が、指先が、がちがちと震えて、上手くつかめない。力が入らない。
ここはわたしの家じゃない。高月くんの家で、高月くんの家は親じゃなくても鍵の開け閉めをしていい。
分かってる。
怒られないって、分かってる。
理解しているはずなのに、今、鍵をかけない方が駄目だって思ってるのに。
手が、言うことを聞かない。
――と。
「あ……」
わたしの後ろから、手が伸びてきた。
その手は、がちがちと震えるわたしを通り抜けるようにして、カチン、と簡単に鍵を閉めた。
振り返ると、高月くんが立っていた。
「ご、ごめ……」
「いい。これだけうるさければ、おきる。かぎをかけわすれた、ぼくもわるい」
ず、と高月くんは鼻をすすった。
――ドンッ!
すさまじい音に思わず肩が跳ねた。鍵を閉められたことを悟ったあの女が、扉を思い切り叩いたのだろう。バン、バン、と何度も音が続く。
「とりあえず、なかに」
高月くんがそう言って、ふらふらとしながら、中に入る。叩き続けられる扉が気になるが、ここにいたら、もしも扉が破られたときにすぐやられてしまうだろう。
「……あ、き、キッチン! コップが割れてるから、気を付けて」
わたしは慌ててリビングの方に戻りながら、言う。
シンク横の水切りかごで割れたから、そこまで心配する必要はないかもしれないけど、破裂するような感じだったから、もしかしたら少しは落ちているかもしれない。
リビングに入ると、高月くんが、薬箱のあった棚の隣の棚を見て、飾ってあった複数の人形のうちの一つを手に取った。布製と思わしき人形は、チェックのシャツにオーバーオールを着た、男の子の人形だ。縫製がしっかりしているのに、顔だけがない。
高月くんは、ぷち、と自身の髪を抜き、人形のオーバーオールの胸ポケットに、それを入れた。
そして、その人形をリビングのテーブルの上に置く。
高月くんの手は震えていて、少し手間取っているようだったけれど、初めてじゃないのか、行動に迷いはない。
「――こっち、きて」
人形を置き終えた高月くんは、彼の部屋の扉をあけ、わたしを招く。状況は全く分からないけれど――。
――バン!
未だ、玄関の扉が激しく叩かれる音が聞こえ続けるこの状況では、高月くんに従うほかない。




