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ぎくり、と体がこわばる。
そんなはずはない。
そう思いたいのに、静かな家の中にはよく響く。
カチカチという、時計の秒針の音。
カカカカッ、ガリッ、ガガガ。
近くの道路を走る、車の走行音。
カカカカッ、ガリッ、ガガガ。
チチチ、と種類は分からないけど、何かの鳥の鳴き声。
カカカカッ、ガリッ、ガガガ。
日常的な音の中に、異音が混じる。
――ガンッ!
「ひゃぁッ!?」
急に、玄関扉をひっかくようなものとは違う、何かがぶつかるような大きな音に変わる。
「な、なに――」
――ガンッ! ガンッ!
玄関扉をひっかくのをやめて、扉を叩くようになったってこと? でも、それにしては妙にリビングにも音が響いている。玄関の扉を隔てて聞こえるような、少しくぐもった感じはしない。
まさか、玄関を蹴破ったってこと?
「そんな、でも、鍵が……」
――高月くん、鍵、閉めてたっけ?
「……っ!」
ぞわり、と鳥肌が立つ。
高月くんが鍵を閉めたところ、見ていない。倒れないか心配だったから、彼のことは視界には入っていた。でも、家のインテリアが独特過ぎて、意識はそちらに向いていた。
とはいえ、高月くんは、少しふらついていただけで、おかしいところなんて何も――。
「――あ」
違う、違うよ。
高月くんの家は、高月くんが玄関扉の鍵の開け閉めをするんだから。
わたしみたいに、親に開け閉めしてもらうルールじゃない。子供が開け閉めしない、わたしとは違う。
そんなわたしが、なんの違和感も抱かなかったってことは。
――ガンッ!
わたしは恐るおそる、リビングと、玄関ホールつなげる扉に近づく。
扉にはガラスが、細く横に入っている。わたしの家のものと違って、すりガラスじゃないから、玄関の様子がちゃんと見えた。角度的に、正面からじゃないから、多少の死角はあるけれど。
それでも、玄関が、玄関扉が、見える。
――ガンッ!
玄関の鍵は開いている。ガン、という音は、ドアガードが激しくぶつかっている音だ。玄関を何者かが開けようとしているけれど、ドアガードがあるから、完全には開けられない。
だからこそ、ドアガードを壊そうと、何度も、何度も、扉を思い切り動かして、ぶつけているのだろう。
――と。
ドアガードの、引っ掛かる部分が本体アームの途中まではものすごい速度で扉が引かれたのに、最後までぶつからず、そのまま、ピタリと止まる。
諦めた……?
そう思ったのも、一瞬。
のろり、と、扉の隙間から、芋虫のように、指が這い出てきた。
指の先の爪。オーバル型の、赤いそれだった。




