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頼まれたし、洗い物をするか、とキッチンへ向かう。カウンターキッチンと言えばいいのか、リビングからキッチンがよく見える。まあ、リビングからよく見えるのは、キッチンだけではなく、高月くんの部屋へ続く扉とかもだけど。平屋だからか、廊下がほとんどない。玄関上がってすぐの場所以外は、全て直接扉がつながっている。
キッチンのシンクの中には、皿が二枚と箸が二膳。あとはコップが三つ。調理器具がないし、レトルトで済ませたのかな? コンビニでご飯を買っているみたいだったし、自炊はしないのかもしれない。
そう考えるとコンロとかが綺麗なのは、掃除好きでちゃんとしている、というよりかは、ただ使わないから汚れない、という風にしか見えない。
「このくらいならサクッと終わるかな……」
わたしはスポンジに洗剤をふくませ、水道の水を流す。皿の汚れが乾燥してこびりついているみたいだから、すぐにスポンジで洗っても落ちないだろう。
それにしても、洗い物がシンクの中一杯……とかならまだしも、これだけのものも洗えないとなると、よっぽど酷い風邪をひいたのかも。
……生きてるよね?
なんだか心配になってきた。いや、流石に風邪で即死ってことはないと思うけど……。
でも、人って案外簡単に死ぬしな。
わたしみたいに。
「いや、笑えねー」
自分で考えておきながら、冗談にならないことを思いついてしまい、思わず独り言を言ってしまう。でも、死んだ人間が言う、人って簡単に死ぬよね、は洒落にならない。
皿に水を当て、汚れをふやかしている間にコップを洗ってしまおう。水を飲んだのか、こっちの方、ほとんど汚れてないし。
「……? 地震、かな……。いや、揺れてるか?」
すすぎが終わったコップを水切りかごに置くと、カチカチとコップとステンレスの水切りかごに当たって音がなる。
水を止めて、揺れを確認する。
……別に揺れてないな。
リビングに飾ってある、謎に吊り下げられている飾り物も全く動いていない。これだけコップが分かりやすくカチカチと動いているなら、こっちの方がもっと揺れていそうなものだけど。
ってことは地震じゃないのかな。え、でも、局所的にシンクの周りだけが揺れてるとかそんなことある?
カチカチ、カチ、カチカチッ!
「うわっ!?」
コップが揺れる音が激しくなって、わたしは思わず悲鳴を上げる。泡だらけの手を急いですすぎ、手を拭いたとき。
――パンッ!
はじけるように、コップが割れる。
チャリ、と、さっきまでコップだった、大きなガラス片がまだ揺れて、擦れ合って音が立つ。
おかしい。普通じゃない。置いておいたコップが割れるなんて、ありえない。
「こ、こうづきく――」
高月くんを呼ぼうとした、その瞬間。
カカカカッ、ガリッ、ガガガ。
どこかで聞いたことのあるような、もう聞かないと思っていたはずのその音が、玄関の方から、うっすらと聞こえてきた気がした。




