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まだ朝のホームルームが始まる前の時刻ではあるけど、今から支度して間に合うのかな……。
「高月くん」
わたしが声をかけると、高月くんはぎょっとしたような顔をして、後ろに後ずさった。
「きさま、なんでここにいるんだ」
物凄い鼻声だった。
「え、高月くん、大丈夫? 風邪ひいた?」
「さわがしいな、このくらい、なんてことはない」
睨んでくるけど、全然気迫がない。病人特有のうるんだ目をしている。この感じだと、結構熱もあるんじゃないだろうか。
いつもつけている眼帯がない。眼帯をつける余裕すらなかった、ってことかな。
この様子だと、今日は休みなのだろう。
荷物持とうか、と言おうとして、わたしは慌てて手をひっこめた。持てるけど、持っていいわけがない。
わたしは行き場のなくなった手を後ろに回しながら、「あー、えっと」と言葉を探す。
「ここ、おばあちゃんの家の近くだったみたいで、凄い偶然だなあって思って。それで来ただけ。高月くんがいるとは思ってなかったよ。これから学校に行って、高月くんを探すつもりだったし」
彼の後を付け回していたわけではない、ということをアピールする。幽霊になった同級生がストーカーしてるとか、別の意味で怖いよね。
「あ、おばあちゃんの家は向こうの方なんだけど、行く?」
「いかん。いったところで、きさまのいうことがしんじつか、わかるわけもない」
そりゃそうだ。
高月くんはため息を吐く。呆れた、という風ではなく、疲れた、という風に。
「あ、ごめん、病気なんだったよね」
「ただの、……、かぜだ」
風邪でも、症状次第では十分にしんどいと思う。高月くんは歩き出したけど、「じゃあ今日はここでお別れだね!」と言えるほどわたしは無神経ではない。
ついて行っても迷惑になるだけかも、と思いながらも、わたしは「大丈夫?」と彼の後ろを歩く。
高月くんはちらりとわたしを見ただけで、それ以上何も言わなかった。
大丈夫だから帰れ、とか言えないくらい元気がないのだろうか。えっ、結構重症じゃない?
この間の週末に会ったときは普通に元気っぽかったけど……。
風邪、っていうのに言い淀んでいたし、もしかして、こう、幽霊の悪い影響みたいなものを受けたりとか?
ということは、わたしのせいだったりする……!?
「高月くん、もしかして、わたしのせいだったり……?」
「は?」
「ほら、なんか、こう、悪い幽霊に影響されて、みたいな……」
思ったことをそのまま伝えると、「ん、んっ」と変な声を上げた。多分、鼻で笑おうとして失敗したんだと思う。
「われの、いのうは、このよにせいをうけてから、ずっとだ。いまさら、このていどで、まいるわけもない」
「……本当に?」
「くどいな」
それ以上、高月くんは何も言わない。
仮にそれが高月くんの気づかいの嘘だとしても、喋るのもしんどそうだし、これ以上言及するのはやめておこう。




