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少し迷ったけれど、わたしは小窓から見えた場所に向かうことにした。まあ、ここからでも一応学校には行けるし、母は祖父母宅に無事たどり着いたし。わざわざ父の車に乗って、出にくい運転席から一緒に出ることもないだろう。歩ける範囲に駅までのバス停があったはずだから、最悪の場合はバスに乗って、そこから学校に向かうこともできる。
「……やっぱり」
なんとなく見たことがあるかも、と思ったのは間違いじゃなかった。
わたしの通夜の帰り、高月くんと一緒に乗ったタクシーで通った道だった。ちょうど、信号待ちをしていた場所だったから、普通に通過してしまうよりは記憶に残っていたのだと思う。
「……ということは……」
わたしは記憶を頼りに、少し歩く。すると、高月くんが使っていたコンビニ――つまりは、あの赤い爪の女の幽霊がいたコンビニにたどり着く。
「もしかして、おばあちゃんの家と高月くんの家って、結構近い……?」
裏道、と言えば正しいのか分からないが、いつも祖父母の家に行くときは、祖父母の家の玄関側に繋がる道路を利用していて、こちら側の道は来たことがないので全然気がつかなかった。あの小屋も、幼少期に「工具が危ないから近づいたら駄目だ」と祖父に言われてから近寄ったことはない。窓があること自体知らなかったから、小屋の中の窓からあの道が見えるなんて考えたことがなかった。
多少は歩くので、お隣さん、というレベルの近さではないことも、余計に知らなかった要因かも。祖父母宅に行くときは、祖父母宅に着く前に買い物を済ませてしまうから、わざわざコンビニに行かなきゃいけないこともなかったし、仮にあったとしても母が行っていたはず。
なんだか意外な発見だ。
「いや、まあ、コンビニには入らないけどさ」
コンビニにいた幽霊とあれからは会っていない。一回きりの遭遇だとしたら、あのコンビニに行ったらまたついてくるかもしれないから、入りたくない。
「でも、高月くんがこの近くに住んでるなら、ここからそんなに学校行くのも大変じゃないよね」
とりあえず、子供の霊が食べ物に興味を持たなかった話を高月くんに伝えたいし、学校に行かなくちゃ。
……こういう時、スマホのメッセージアプリとか、電話でサクッと連絡取れないの、不便だよなあ。
そんなことを考えていると、コンビニから高月くんが出てきた。黒いTシャツと黒いスウェットズボン、黒いマスクといういで立ちだ。……あれ? めちゃくちゃ部屋着っぽい恰好だけど、今日、普通に学校だよね……?




