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数日後。わたしは父の出社のタイミングを見計らって、家を出た。
子供の霊にお菓子をあげるのに失敗してから、何日か様子を見てみたけれど、何かを食べようとしているところを見なかった。
……というか、そもそも、リビングから出てこようとすることが、あまりなかった。
勿論、全く出てこないわけじゃない。ただ、なんというか。自発的に扉を開けて、出てこようとしないというか。
カリカリと扉をひっかいてばかりなのは、正真正銘、開けて欲しいというアピールなのかもしれない。扉の開け方を知らない犬猫みたいだな、と思ったのはあながち間違いではなかったというわけだ。
別に、扉くらい好きに開けたらいいのに。虐待を受けていたら、そういうことすら親の顔をうかがうようになってしまうのだろうか。
「――ほら、ついたぞ」
父がとある一軒家の、狭い駐車場へ車を止める。母は後部座席で、うなだれているばかり。
高月くんが我が家に来て、ノートを持ち出した日から、母は分かりやすく憔悴していた。わたしが死んだと分かったときと同じか、それ以上くらいに。
今日は気になって、わたしも車に同乗してしまった。死んじゃうんじゃないか、と気が気ではない。
まだまだ母には生きて欲しいのに。
「あ、おはようございます。今日もすみません……」
父が家から出てきた祖母に声をかけ、母を預ける。今のうちに、母が降りた後、そのまま開きっぱなしだったドアから、わたしも降りた。
「……?」
祖母と一緒に家から出てきた祖父が、車のバッグドアの方へと向かう。何か荷物があるのかな? いつも大荷物ではなかったように思うけど……。
祖母と母が家の中に入ったのを見ると、父がバッグドアを開け、中からゴミ袋に詰め込まれたわたしの私物を取り出した。
「すみません、運ぶのは自分がやるので……鍵だけお願いします」
「ああ。……あの子も、きっと落ち着いた頃に後悔するだろうから、取っておいたほうがいいだろうさ」
父はわたしが知らないうちに車へとわたしの部屋にあったものを移動させていたらしい。ちなみに、あれから、母は全てわたしの私物をゴミ袋につめ、わたしの部屋にはベッドフレームとシーツのかかっていないマットレス、机と椅子だけ、と、大型の家具だけが残るのみになってしまった。
家の横にある、物置の鍵を祖父が開ける。日曜大工が趣味の祖父の工具等の置き場兼作業場のここは、普通の物置よりも少し広い。物置というよりは小屋みたいなものだ。
「家の中に置けたらいいんだけどねえ。うち、鍵かけられるのトイレとここだけだから」
「いえ……もう少し落ち着いたら、取りに戻ってきますので」
一時的にここへとわたしの私物を避難させるつもりらしい。日曜大工の作業場とはいえ、綺麗好きの祖父が管理しているここは掃除も行き届いているから、家の外でもわたしの私物を置いていても、そうそう汚れることはないだろう。
荷物を置いて、少し話をする二人。会話の内容はやはり母のことで。この状態が続くようならば、精神科にかかることも視野に入れている、みたいな話をしていた。
「それでは、自分はこれで……。いつもすみません」
「いやいや、困ったときはいつでも頼ってくれ」
話を切り上げ、父が仕事に向かう流れになって。わたしも父について行こうとしたとき――。
「――……ん?」
小屋の入り口正面にある窓が目の端に入る。
その小窓から見える風景になんだか見覚えがあって、わたしは足を止めてしまった。




