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高月くんと別れ、自宅に戻る。次、家に入れるのはいつになるかな、と思っていたのだが、丁度父が外に出て、電話をしていたので、彼が家の中に入るタイミングで一緒に入れさせてもらった。明日の朝まで家の中に入れないかも、と覚悟していたのでラッキーだ。
わたしが戻ってきた頃にはちょうど電話が終わるところだったから、誰に電話をかけたのか知らない。でも、母に聞かせられないと判断して外で電話をかけたとしていたら……母の実家、つまりは母方の祖父母のどちらかと会話していたのかも。
家の中に入ると、ガタガタと、大きな音が聞こえてくる。音の発生源はわたしの部屋だ。
何だろう、と思って覗いてみると、母がわたしの部屋を片付けていた。片付ける、と言っても、大切に段ボールにしまって、とかではない。三鷺市の指定ゴミ袋にどんどんと物をつめていっている。
「ほら、あんまり乱暴に扱うと、本当に駄目になるぞ。お義母さんが家に置いていいって言ってたから――」
「捨てる、捨てるの! 全部!」
高月くんに置いていけ、返せ、と言っていたくせに、今は打って変わって、全て手放そうとしている。
雑にゴミ袋へと物を捨てているところを見て、高月くんにあのノートをたくしてよかった、と思わず考えてしまった。こんな中であんな、母の目を盗んで描いた漫画のノートが見つかったら、一体なんと思われることか。
半狂乱になっている、といっても過言ではない母の様子に、父は引いた。
「全部って……。麻耶花のものは取っておこうって言いだしたのはお前じゃないか」
「もう全部じゃない! あの子が持って行っちゃったじゃない!」
バン! と母が八つ当たりするように、クローゼットの中に詰め込んでおいたバッグを床に叩きつけた。クローゼットの中を探られないために、クローゼットの中の物を増やそうと買った安物で、一回も使ったことがないから、思入れとかは一切ないけれど、こうして乱暴に扱われるといい気はあまりしない。
「一旦落ち着いて……。やけになって後悔するのはお前だぞ」
「しない! しないわよ!」
すっかり情緒不安定になってしまった母を父は持て余しているようで、たじろぐばかりだ。娘を亡くしたことが原因なだけあって、強く言えないのだろう。父もまた、わたしを喪ったことから、既に立ち直ったわけではない様子だから、余計に。
「貴方は引っ込んでいて!」
少しでも物を避難させようと、入口近くのカラーボックスの方に伸ばした父の手を、母が素早く振り落とす。
ここまでされては、父も、もう逆らう気が失せたのだろう。
ため息を一つ吐いて、父はわたしの部屋を後にした。
「…………」
わたしは、そんな様子をただ眺めていることしかできなかった。




