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高月くんが反応したのは、犯人である母親の顔にだろう。さっきまではネットニュースの記事しか見ていなくて、文字情報ばかりだった。名前も出ていたのにも関わらず、顔を見てこんなに反応するってことは、どこかで見かけたことがある人、ってことなんだろうか。
「高月くん?」
高月くんは黙ってそのままスマホを閉じる。もしかして、知り合いだったのかな。名前はそこまで珍しいものではなかったから、顔を見るまで気が付かなかった、とか……? 同性同名の別人だろうと思い込んでいた、とかの可能性はありそうだ。
でも、知り合い? って聞くの、ちょっと気まずいな……。たまたまテレビに映り込んだ人に反応した、とか、そういう話ではない。普通に犯罪者で、しかも死人が出てて、その事件の被害者である子の幽霊のせいでさらにわたしが命を落としている。
仮に知り合いだったとしても、諸悪の根源過ぎて……。
「と、とりあえず、今日のところは解散にしよ……? わたしもパパたち心配だからそろそろ戻りたいし……」
普通に成仏させるのは難しそうなので、また策を練らないといけない。とりあえず、即死しないのであれば、まだ時間はあるはずだから、対処方を考えていきたい。
一刻も早くどうにかしたいのは事実だけれど、気が急いで、失敗して、両親が死ぬのだけは嫌だ。わたしの目的は二人をあの幽霊に殺させず、幽霊なんかに邪魔されない環境下で安全に生活してもらうことなんだから。
でも、今ここで二人で頭を抱えたところで、いい案が出るようには思えなかった。
「……そうだな。我の方でも、何かいい案がないか、考えておこう」
そう言って、高月くんは踏みっぱなしだった、片方の革靴のかかとを直す。
「して。このノートは処分でよかったのだったな?」
「うん。適当に資源ごみとかで……、ちょ、ちょ、ちょ!」
高月くんが、パラ、とノートをめくろうとするので、わたしは慌ててそれを止める。
止める、というか、止めようとした、というか。
手を伸ばしても高月くんをすり抜けてしまうので、わたしはノートの方を開かないように両手で挟み込む。
「……なんだ、この手は」
いや、普通に読まれたくないでしょ。処分を頼んでいるんだから、それくらい分かってよ~!
「我にはこれを読む権利があると思うのだが。貴様に協力したとて、我になんの見返りもないのだぞ」
「ぐっ」
正論だった。いや、なんか、こう……駄目だ、他にお礼になりそうなものが思いつかない!
「どうせ闇に葬られるのだからいいではないか」
「…………中身、見ても墓場まで持っていってよ。ママに中身聞かれても、絶対言っちゃ駄目だからね」
「承知した」
高月くんはそう言い、好奇心を抑えきれていない表情で、ノートをめくり始めた。
うう……死ぬまで誰にも見せないつもりだったのに……! いや、もう死んでるけど……!




