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三鷺市女児虐待死事件。
それが、わたしの家で起きたと思われる事件の名前だ。
小学三年生の女の子が、母親からネグレクトを受け、餓死した事件。シングルマザーであった母親は、仕事を理由にほとんど家へと帰っていなかったという。
「……成程。確かに写真を見る限り、あの部屋で起きた事件のようだな」
スマホでいくつか事件の記事を見た高月くんは、わたしと同じ結論に至ったようだ。細かい住所は出ていないものの、三鷺市はここだし、ニュース動画に出てきたマンションもうちと同じ。プライバシーのためにある程度ぼかしが入っているものの、実際に訪れたことのある人であれば、大体は分かってしまうことだろう。
「それなりに昔の事件だな。十七年前ともなると――罪は裁かれ、母親は牢獄から現世へと舞い戻ってきているのではないか?」
わたしたちが生まれた頃に起きた事件。調べた限りでは、母親は九年弱の懲役が科されていたはず。……確かに、何も問題を起こしていなければ普通に出所していると思う。
「流石に母親の現在は分からないが……特にそういう情報がないということは、罪を償う最中に命を落とすようなことはなかったのだろうな」
殺人犯が死んだり、不審死だったりする場合は獄中死の情報が出回るイメージはある。虐待死させた場合でも出るものなのかな? まあ、いち学生のわたしたちが情報を集めるのにも限界があるから、ここでは無事に出所したと仮定しておこう。
「無事に出所して、子供はあの部屋にいるままだとすると……、自分を死なせた母親への復讐とかは、あまり興味がない、のかな……?」
わたしは死んでから幽霊の存在を知ったばかりなので、なんとも言えないけれど、復讐するなら相手へと憑りつこうとするもののような気がする。
そうじゃなくても、ずっとそばで見張って、殺せるタイミングを狙うと思う。
「その可能性はあるな。となると……単純に、腹を満たしたい、とかではないか? 上半身がしっかり残っているのは、食べるための手と口を確保したいという念が童をあの形にした」
「……なるほど」
納得できる話かも。初めて、勝手に扉が開いていることを目撃したのはキッチンだ。開いていたのはシンク下の扉。我が家では、米や袋めん、パスタなどの乾麺を収納している。包丁が落ちていたから危ないイメージばかりあったけれど、同時に食品を収納している場所でもあるのだ。
なんでもいいから食べたくて、食品を探していた。這うような移動しかできないみたいだったから、良く食べ物が見えて、分かりやすいシンク下を選んだ。
……筋は通っているかも。




