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駅でひと悶着あったものの、わたしの家に着くまで、それ以上のことは何も起きずに、家へとたどり着くことができた。コンビニからついてきたあの女の幽霊も、見当たらない。まあ、いなくてよかったけど。あの女の幽霊がいたら、高月くん、ビビッて帰っちゃうかもしれないから。
そんな高月くんは、わたしの家の前で、インターフォンを鳴らすかどうか、迷っている。
「え、押さないの?」
「いや……なんと言ったらよいのか……」
「もしかして、友達の家に遊びに行ったりとかしたことない?」
高月くんがイラッとしたような表情でインターフォンを押した。図星だったらしい。
数十秒ほど待つと、父が少し警戒したように、扉を開ける。
「あ、すみません。僕、麻耶花さんのクラスメイトで、高月次太郎と申します」
さっきまでまごついていた様子はどこへやら。いかにもさわやかな少年、という風な態度で高月くんが自己紹介をする。……大人には普通に接するんだな。いや、教師にもあの中二病モードだったから、学校かそうじゃないかで区別つけてる……のかな?
わたしのクラスメイト、という言葉を聞いて、父が「はぁ……」と力ない声をこぼす。あんまり分かっていない表情だ。
「その……これを届けに来ました」
高月くんが、大きなスケッチブックを父に渡す。
スケッチブックを受け取った父は、スケッチブックの表面を見て、わたしの名前を確認する。わたしの名前が、わたしの文字で書かれていたのを見て、父の表情は幾分か和らいだ。本当にクラスメイトなのかは分からないが、少なくとも同じ学校の生徒で、遺品となるスケッチブックを届けに来てくれた、という風に信じてくれたみたいだ。
まあ、ここからが本番なんだけど。
「それと……麻耶花さんから、遺品整理を頼まれていまして」
「麻耶花から?」
パッとスケッチブックから高月くんへと視線を移した父の表情が曇る。自殺をほのめかすような相談をしていた風に聞こえるから、無理もないかもしれないけど。
高月くんもそれを察したのか、「友人として、もし事故とかで何かあったときは絶対処分してくれ、と頼まれていたので」と言葉を付け足していた。死んだ後に頼んだから、もちろん、でまかせだが。
それでも、自ら命を絶つ決断を相談していたわけではない、と分かったのか、父は暗い顔をしながらも、それ以上高月くんを攻めるようなことはなかった。
「……麻耶花がそう言っていたなら、よっぽど大切なものなんでしょう。分かりました、どうぞ上がってください」
思ったよりもあっさり信じられて、拍子抜けだ。まあ、父が門前払いするようなことは心配していなかったから、父が来客の対応をしてくれただけで勝ち確みたいなものだったけどね。
「お邪魔します」と高月くんが靴を脱いだとき。
――カリッ。
扉をひっかくような音。いつもの音。
高月くんの耳にもそれが聞こえてきたのか、一瞬、彼の体がこわばった。
音の発生源――リビングへと続く扉の方を見れば、ほんの少しだけ開いた扉の隙間から、子供が、こちらを覗いていた。




