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ぞわぞわぞわ、と鳥肌が立ったような気がして、わたしは思わず二の腕をさすりながら、さらに数歩、高月くんモドキから距離を取る。
わたしが高月くんモドキから離れても、彼はこっちを見つめ続けるだけで、動こうとはしない。
「早く行くぞ」
高月くんは見慣れているのか、大した反応も見せず、歩き出してしまった。わたしは慌ててそれを追う。
「ね、ねえ、ねえ! アレ、何! さっきの、何!」
歩くスピードを緩めない高月くんの後を、小走りでついて行く。走る速度を上げて彼の横に追いつけば、高月くんの顔はこわばっていた。全然見慣れている様子じゃない。彼の行動が早かったのは、ただ逃げたかっただけなのだろう。
駅を出て、ようやく高月くんが足を止めた。ちらり、と後ろを見るが、あの高月くんモドキがわたしたちについてきた様子はない。幽霊の影がゆらゆらと、数人分あるものの、どれも薄く、先ほどのように濃い影は見当たらなかった。
後ろを確認したのはわたしだけじゃないようで、息を思い切り吐いた声が聞こえてきた。
「ああいうの――」
高月くんが口を開き、咳ばらいをする。再び、電話をかける振りをしながら、「あのような闇の者は、駅によく姿を現す」と、少し演技かかった声音で言った。
「以前、この駅で、自ら生を手放した者の末路なのだろう。共に運命を歩む共同体を探してやまないのだ、ああいった類の者は」
この駅で自殺者が出た話は知らないけど……でも、わたしがここに引っ越してきたの最近だし、昔のことは知らな――……ん?
「えっ、もしかして、さっきのって、わたしを連れてこうとしたとか、そんな感じ、だったり……?」
「……それ以外に何がある」
想像以上の答えに、思わず息を吸い込みそうになって、喉がひきつる。もう呼吸の必要がないからか、自発的に呼吸をしようとすると、どうにもつっかえてしまう。わたしは思わず、喉元を撫でた。
「あの、生きた人がああいうのに連れていかれたら死んじゃう、っていうのは分かるんだけど……。も、もし、幽霊が連れていかれたらどうなるの?」
「知らぬ。我は生者だ」
それはそうかもだけど……。
「やめるか」
高月くんは、再びわたしの目を見た。真剣な表情で。
「子供の姿をしていると分かる程度には、鮮明な形を保っているのだろう。ならば、先ほどの、一時的に人の形を持てる者よりも強者。敗北すれば、どうなるか分からない」
逃げても構わない、やっぱりやめるってなっても、高月くんはきっと責めない。というか、彼にとってはそっちの方がいいのかもしれない。
でも。
「やめない」
わたしは即答していた。
「絶対、やめない。諦めない。二人を、あの子供に殺させたりしない」
これだけは、絶対に譲れないのだ。




