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わたしが死んでからも、美術室は変わらない。まあ、当たり前と言えば当たり前なんだけど。美術部が活動するのは放課後だけで、だからこそ、わたしは昼休みにここを借りていたのだ。コンクールに積極的に参加するために、昼休みも美術室をがっつり、真面目な人がいる部活でもないから。
「えーっと、この辺にあるはず……」
わたしは教室の一番奥にある、古い作業台の上を探す。デッサン用の石膏や果物の模型、ビンが雑多に置かれ、その隣にブックスタンドがある。そこに、選択授業で美術を選んでいる人がスケッチブックを置いていて、わたしのスケッチブックも、そこに紛れ込ませてあるのだ。
「これか」
高月くんが一冊のスケッチブックを取りだす。わたしの名前が書かれたそれは、他のスケッチブックと比べて、少し古びている。
「あ、それそれ」
「……でかいな」
「まあ、授業でも使うような奴だしね」
普段、一般授業で使っているノートサイズのスケッチブックを想像していたらしい高月くんは、抱えないと持てないような、F8サイズのスケッチブックを見て、少し嫌そうな顔をした。
「持って帰るの大変かもだけど、なにとぞ……」
「――はぁ」
高月くんは深いため息を吐く。やっぱやめる、と言わないあたり、嫌々でも引き受けてくれるのだろう。
「……して、遺品整理の方は、何をすればいい」
「んー……。えっと、箱の中身を捨てて欲しくて」
「箱?」
「そう、箱」
クローゼットの奥、衣装ケースの裏側にこっそり隠している、プラスチック製の箱。百円ショップで売っていた、書類をまとめるやつ。あれの中身を捨てて欲しいのだ。
「箱ごと持って帰って、中のノートを捨ててくれれば嬉しいな。あ、外側の箱はあげるから、使ってもいいよ」
「別にいらん」
外側は普通の書類ケースだから、再利用できると思うんだけど……。まあ、高月くんがいらないというなら、それも捨ててもらうということで。
「箱は見られてもいいけど、ノートの中身は絶対見られないようにしてね。特にママには」
「……、……承知した」
高月くんは何か言いたそうにしていたが、結局、何も言及せず、ただうなずいただけだった。
微妙な間を縫うようにして、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「あ、そろそろ教室戻らないと。それじゃあ、今週末はよろしくね。駅まで迎えに行くから、お昼すぎくらいに、三鷺駅の西口で待ち合わせしよ」
「……ああ」
高月くんは返事をすると、美術室を出て、教室へと向かう。
わたしはもう授業を受けることはないから、学校にいなくてもいいんだけど、このまま家に帰ったところで入れるわけでもないし。
わたしは何をするでもなく、美術室の椅子に座り、久々の美術室の空気に少しだけひたるのだった。




