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昼食を食べ終え、わたしのスケッチブックを取りに行くべく美術室へと向かう高月くんの隣を歩きながら、「そういえば」とわたしは彼へと話しかける。
「幽霊、っていっても、ちゃんと人の姿をしているのと、人っぽい形はしてるけど黒い塊なのと、二種類いるんだね。何か違いがあるの?」
周りには誰もいない。美術室がある棟は特別教室しかないので、昼休みと言えど、ほとんどひと気はない。
それなのに、高月くんは周りを気にしているように、きょろきょろと見回していた。
高月くんの、中二病、というキャラ付け的にも、何もない空間に話しかけているという姿を目撃されたところで、今更彼の印象が変わるわけもない。というか、むしろ中二病キャラという設定が強化されるだけ。
だから、多分――彼が気にしているのは、人ならざるものの存在。
廊下には、誰も、何もいない。
正真正銘、わたしたちしかいないことを確認した高月くんが口を開く。
「……しっかりと人の姿をしている者は――生者に近い姿を持つ者ほど強い未練を持っている」
「未練……」
「そうだ。……特に、恨みや怒りを抱くものはより鮮明にその姿を保てる」
あの子供の幽霊も、コンビニにいた赤い爪の手を持つ幽霊も。彼女らなりの未練があるということか。
そして、それは、高確率で負の感情を持っている、ということ。確実にそうとも言えないけど。
「……あ、もしかして、だから、わたしもそういう幽霊になったのかも、って、葬儀場でビビッたの? わたしも結構、生きてた頃の姿に近いもんね」
「恐れてなどいない!」
嘘だぁ。めちゃくちゃビビってたじゃん。
「でも、別にそういう悪い感情が元になって未練を持ち続けている、っていう幽霊しかいないってわけでもないんでしょ?」
「……我はそんな幽霊、見たことないがな」
納得いっていない表情の高月くん。よっぽど、今まで怖い幽霊しか遭遇ことがないんだろう。……まあ、わたしも、家にいる子供の幽霊や、コンビニにいた赤い爪を持つ幽霊が、誰かを守りたい、みたいなポジティブな感情でこの世にとどまっているようには見えないけど。
でも、完全に否定しないっていうことは、ありえない話ではないということだろう。
そんなことを話していると、美術室へとたどり着く。誰もいないが、鍵はかかっていない。いつものことだ。大体、午前中にどこかの学年で美術の選択授業があるから、そのまま放課後の部活終わりの施錠まで、鍵は開けっ放しなのである。
ガラリ、と扉を開ける音が、静かな空間で、妙に響いた。




