13
すでにリビングには誰もいないのか、リビングの電気はついていない。それでも、相当扉の近くにいるのか、子供の影はハッキリと見ることができた。
――カリッ。
扉の向こう側の影が動き、扉をひっかくような音が聞こえてくる。ここから出して、とでもいうように。
わたしは思わず一歩下がるが、すぐに玄関扉に背中が当たる。逃げ場はない。
――カリッ、カリッ。
何度でも聞こえてくる、扉をひっかく音。
カリカリと、扉をひっかく音は聞こえてくるのに、ドアノブは一向に動く気配がない。
こちらから子供の影が見えているのだから、きっと子供からわたしの影も見えているはず。だからこそ、扉を開けて欲しいと、ひっかいてアピールしているのかもしれない。子供の年齢や体格からして、十分ドアノブを開けることは可能だと思うけれど……。
わたしはその扉から目を離さないように、体を横に動かすようにして家へと上がる。そしてそのまま、玄関入ってすぐの扉へと、耳を付けた。両親の寝室の扉だ。
先ほど父がそのまま寝室へと行ったのを見たから、少なくとも父はここにいるはず。リビングの方から明かりが感じられないということは、おそらく母もこの部屋にいることだろう。
扉の前に、人の気配はない。扉から離れた位置で、話し声が聞こえるような気がした。
「――、ふぅ」
わたしは、ちらり、とリビングの扉の方見て、子供が出てこないことを確認し、深呼吸をする。死んでいても、これが落ち着ける行動には変わりないだろうから。
ゆっくりとドアノブを下げ、わたしはそっと中を覗き込む。
それぞれベッドの上に両親は座っていた。母は両手で顔を抑え、うつむいているし、父に至っては扉とは背中合わせになっている。二人とも、わたしが扉を開けたことに気が付いていない。
「……やっぱり、今夜は式場に残るべきたったのよ」
そう言う母の声は震えていた。
「そうは言うが……。明日からのためにも、今日は寝るべきだろ? あそこに残ってたら、お前、全然休めないじゃないか」
「どこにいたって、寝られるわけないじゃない!」
母は泣き叫ぶように、怒鳴る。
直近の葬式が、小学生の頃の父方の祖父の葬式だったのでよく覚えていないのだが、両親の会話を聞くに、親族は式場に残れるらしい。お通夜ってそういうものだっけ。
家に帰って、寝室でこの状態なら、わたしの死体がある式場にいたなら、わたしの側に母はずっといて、誰も近づけなかっただろう。
ちり、と首にロープが横に食い込んだ後が痛んだような気がして、わたしは思わず首を撫でた。
「……ママ……」
わたしの呼びかけは、二人に届くこともない。泣きわめく母を閉じ込めるように、わたしはそっと扉を閉めた。
……とりあえず、今のところ、二人はまだ無事。生きている。あの子供に何かされた様子はない。
わたしは両親の寝室の扉に背中を預けるようにして、膝を抱えて座る。リビングに閉じ込められた子供の影が、見えるように。
やっぱり、二人には、死んでほしくないから。




