12
――あ、ついてきた。
まず先にそう思いついて、その事実を理解したとき、ぞわり、と鳥肌が立つような気分を味わった。
ガリッ、ガリッ、とひっかくような音。
芋虫がはうかのように動く枯れ枝のような生気のない指に、赤いオーバル型の爪。
高月くんと一緒に入ったコンビニの、レジカウンターの下から這い出ようとしていた、あの手と全く同じ。
「――ッ!」
わたしは叩くようにインターフォンを鳴らす。怖がらせちゃうかな、なんて考えている余裕はない。高月くんですら、近づきたくないような幽霊がついてきてしまった。あの柵の下から、あの手の持ち主が出てきたら。今のわたしに、勝てる相手なのだろうか。
早く、早く。扉を開けて。中に逃げないと。
死んでしまったからもう心臓は動いていないはずなのに、心音が聞こえてこないのに、体の中を血が巡るような、熱い感覚だけが確かにわたしの中にある。
手首まで手が出てくる。
その手が柵を掴んだ。
一気に登ろうとしてる?
わたしはもう一度、インターフォンを押す。
車があるのだから、両親が家にいるのは間違いない。
彼らを待った方がいいか、それともこのまま逃げたらいいのか。
どっちが早い?
ぐるぐると、頭の中を色々な考えが巡る。
このままインターフォンを連打したり、ドアノブをガチャガチャと上げ下げしたら、きっと不審者が来たと思って扉を開けてくれなくなるだろう。
かといって、一度逃げてしまえば、次またインターフォンを鳴らしたところで両親は扉を開けてくれないと思う。わたしの姿を両親は見ることができないから、一度インターフォンが鳴って扉を開けて誰もいなければ、また同じことがあったら次は扉を開けないだろう。
となれば、結局明日の朝、両親が外に出てくるタイミングを待たないといけないことに変わりはない。
いつでも走って逃げられるように、それでも扉が開かれたらすぐに中へ入れるように、構えながら待っていると――ガチャリ、と扉が開いた。
「……? 誰かいるのか?」
でも、扉が開ききっている様子はない。チェーンをかけたまま、外の様子をうかがっている父の姿が、扉の隙間から見えた。
誰も父に答える声はない。それはそうだ。今ここにいるのは死者が二人。父の質問に返事をしたところで、父には届かない。
父が警戒するかのように、しっかりとドアノブを握りしめたまま、チェーンを外し、鍵に手を添えたまま、半身だけ扉の外に体を出してあたりをうかがっている。誰か不審者がいれば、すぐに扉と鍵を閉めるつもりなのだろう。
わたしは何とかその間を滑り込むようにして中へと入る。父をすり抜ける形になったが、そんなことを気にしている場合ではない。
わたしが中へ入って数秒後、父がため息を吐いて扉を閉め、鍵とチェーンをかける。誰もいないと思ったのだろう。
靴を脱ぎ、廊下を歩く父の後ろ姿を見ながら、わたしはその場へとしゃがみこんだ。
とにかく、無事に中へと入れた。コンビニで見かけたアレについてこられたのは予想外だったけど……、でもとりあえずは逃げられたから、と思っていたわたしの耳に、「お、ぁ、ああ、んんん」という言葉になっていない音が聞こえてくる。
バッと顔を上げると、リビングへとつながる扉の向こう側、すりガラス越しに子供のような人影があるのが分かる。
……そうだ、ここも別にそこまで安全な場所じゃないんだった。




