表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日からここは事故物件  作者: ゴルゴンゾーラ三国


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/70

12

 ――あ、ついてきた。


 まず先にそう思いついて、その事実を理解したとき、ぞわり、と鳥肌が立つような気分を味わった。

 ガリッ、ガリッ、とひっかくような音。

 芋虫がはうかのように動く枯れ枝のような生気のない指に、赤いオーバル型の爪。

 高月くんと一緒に入ったコンビニの、レジカウンターの下から這い出ようとしていた、あの手と全く同じ。


「――ッ!」


 わたしは叩くようにインターフォンを鳴らす。怖がらせちゃうかな、なんて考えている余裕はない。高月くんですら、近づきたくないような幽霊がついてきてしまった。あの柵の下から、あの手の持ち主が出てきたら。今のわたしに、勝てる相手なのだろうか。

 早く、早く。扉を開けて。中に逃げないと。


 死んでしまったからもう心臓は動いていないはずなのに、心音が聞こえてこないのに、体の中を血が巡るような、熱い感覚だけが確かにわたしの中にある。


 手首まで手が出てくる。

 その手が柵を掴んだ。

 一気に登ろうとしてる?


 わたしはもう一度、インターフォンを押す。

 車があるのだから、両親が家にいるのは間違いない。


 彼らを待った方がいいか、それともこのまま逃げたらいいのか。

 どっちが早い?


 ぐるぐると、頭の中を色々な考えが巡る。

 このままインターフォンを連打したり、ドアノブをガチャガチャと上げ下げしたら、きっと不審者が来たと思って扉を開けてくれなくなるだろう。

 かといって、一度逃げてしまえば、次またインターフォンを鳴らしたところで両親は扉を開けてくれないと思う。わたしの姿を両親は見ることができないから、一度インターフォンが鳴って扉を開けて誰もいなければ、また同じことがあったら次は扉を開けないだろう。

 となれば、結局明日の朝、両親が外に出てくるタイミングを待たないといけないことに変わりはない。


 いつでも走って逃げられるように、それでも扉が開かれたらすぐに中へ入れるように、構えながら待っていると――ガチャリ、と扉が開いた。


「……? 誰かいるのか?」


 でも、扉が開ききっている様子はない。チェーンをかけたまま、外の様子をうかがっている父の姿が、扉の隙間から見えた。

 誰も父に答える声はない。それはそうだ。今ここにいるのは死者が二人。父の質問に返事をしたところで、父には届かない。


 父が警戒するかのように、しっかりとドアノブを握りしめたまま、チェーンを外し、鍵に手を添えたまま、半身だけ扉の外に体を出してあたりをうかがっている。誰か不審者がいれば、すぐに扉と鍵を閉めるつもりなのだろう。

 わたしは何とかその間を滑り込むようにして中へと入る。父をすり抜ける形になったが、そんなことを気にしている場合ではない。

 わたしが中へ入って数秒後、父がため息を吐いて扉を閉め、鍵とチェーンをかける。誰もいないと思ったのだろう。


 靴を脱ぎ、廊下を歩く父の後ろ姿を見ながら、わたしはその場へとしゃがみこんだ。

 とにかく、無事に中へと入れた。コンビニで見かけたアレについてこられたのは予想外だったけど……、でもとりあえずは逃げられたから、と思っていたわたしの耳に、「お、ぁ、ああ、んんん」という言葉になっていない音が聞こえてくる。


 バッと顔を上げると、リビングへとつながる扉の向こう側、すりガラス越しに子供のような人影があるのが分かる。

 ……そうだ、ここも別にそこまで安全な場所じゃないんだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ