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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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プレゼント大作戦

フィオナと手を繋いでダイニングへと戻る。流石にルッカに見られるのは気恥ずかしかったので、入る直前にはそっと手を離した。


「おかえりなんだぞ」


 ルッカの取り皿には大量の鳥の骨が積み上がっていた。


「ちょっと、私たちがいない間にどれだけ食べたのよ」


 更に、あれだけあったチキンももうさほど残ってはいなかった。


「二人でご飯中に乳くりあうのが悪いんだぞ。ルッカは普通に食べてただけだぞ」


「乳くりあってなんかないわよ!」


 顔を赤くして怒るフィオナの横で、泣きながら抱き合った光景を思い出し、俺まで赤面してしまう。


「なんか思ってた反応と違うぞ。もしかしてちゅーしたんだぞ?」


 フィオナの顔がボッと更に真っ赤になった。その様子を見てルッカはぽかんとしていた。


「お幸せになんだぞ」


「うるさいわよ!」


 ギャーギャー騒ぎながら、俺たちは晩ご飯を食べた。フィオナの顔は食べ終わるまで真っ赤に染まっていた。


 洗い物をフィオナと二人で片付けると、順番に風呂に入って就寝だ。それぞれが部屋へ戻っていく。だが、俺にはとある作戦があった。


「題して、クリスマスプレゼント作戦!」


 俺は一人サンタクロースの衣装を身にまとい、プレゼントを入れた袋を抱える。俺はクリスマスを忘れてなどいなかった。準備は万端なのである。


 二人が寝静まるであろう深夜まで、俺は部屋で待機していた。時計の針が深夜の0時を指し示す。俺は立ち上がり、そろっと部屋を抜けて二人の部屋の前まで忍び足で近付いたのだが。


「あれ? 二人とも起きてる……?」


 二人の部屋の電気が付いていた。ドアの隙間からは明かりが漏れている。


 来た道を引き返し、自分の部屋へと戻る。どうしようかと少し悩んだが、もう少し待ってみる事にした。


 スマホを触りながら待つこと一時間。流石にそろそろ寝ただろうかと部屋を出る。だが、それでも明かりは消えていなかった。


「まいったな……」


 フィオナとルッカにとっては初めてのクリスマスだ。思い出に残るようなものにしたいと思って企画したこのクリスマスプレゼント作戦なのだが、早くも頓挫しそうになっていた。


「電気を付けっぱなしで寝ちゃったって事もあるかな……」


 意を決してルッカの部屋の扉をそっと僅かに開け、隙間から覗き込む。すると案の定、ルッカは布団ではなくローテーブルに突っ伏して眠っていた。手にはペンを握り、頭の下には書きかけの設計図らしき図面が広がっている。


「何か新しい魔道具でも思いついたのかな」


 図面の右上には、道具の名前なのだろうか。『ウネウネ改』と書かれていた。ヒダの付いた細長いワームのような何かである。


 俺は見なかった事にして、ローテーブルの空いたスペースにプレゼントの箱を置いた。


 とりあえずこれで任務完了だ。


 物音を立てないよう慎重に部屋を脱出し、扉を閉める。安堵のため息を吐いた。


 さて次はフィオナだが、果たして寝ているのだろうか。


 先程と同じように音を立てないよう慎重に扉を開け、隙間から覗き込む。


 フィオナは残念ながらまだ起きているようだった。何やら声が聞こえてくる。


「う、これ悪くはないのだけれど……何か足りない気がするわ」


 フィオナは布団に潜っているらしく、姿は見えない。


「でも、一番奥まで……んっ」


 こ、これってまさか……いや、フィオナだしそんな事はしないと思う。多分。


「ウネウネって馬鹿みたいな名前だと思ったけれど、中でウネって刺激が……んん」


 ダメだ、戻ろう。


 そう思って扉を閉めようとした瞬間、動揺したせいか扉に足をぶつけてしまう。


 ゴン、と軽く音が鳴った。


「誰!?」


 フィオナが布団を蹴飛ばして飛び起きる。


 しまった、と思ってももう遅い。


 だが、ゆっくり音を立てずに逃走を図れば、勘違いだったと思ってもらえないだろうか。見てはいけないものを見てしまい、俺の頭の中は完全にパニック状態だった。


 そろーっと扉から離れようとすると、フィオナの声が部屋から響く。


「出てこないのなら、吹き飛ばすわよ!」


 内心「ええ!?」と思ったが、多分今の俺は賊扱いなのだろう。フィオナが普通の女の子なら問題はないのだが、生憎と異世界のエルフだ。言葉通り吹き飛ばされかねない。


 でも、あの光景を見た後に名乗り出る勇気も持ち合わせてはいない……どうしよう。


 業を煮やしたのか、フィオナがバン! と扉を開けて部屋から飛び出してきた。


 迷っていた俺は扉の前で立ち尽くしていた。


 目の前には、服のはだけたフィオナ。そしてその下腹部には――


「えーと、その、ね。メリークリスマス」


 袋からプレゼントを取り出して渡す。


 プレゼントを受け取ったフィオナは、相手が俺だと気付いてホッと安堵の息を吐いた。だが次の瞬間、今の自分の状態に気付く。


「いやぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は吹き飛ばされた。


 魔法なんてものは使っていない。ただの平手打ちでだ。


 頬を打たれ、後方数メートルまで吹き飛ばされる。


 フィオナって単純なフィジカルも強いんだな……なんて事を思っているうちに、俺の意識は落ちた。


 目が覚めると、俺は柔らかな枕に頭を乗せて寝かされていた。


 ここはどこだろうか。


 意識が落ちる前の状況を思い出そうとして、ハッと覚醒する。


「フィオナに謝らないと!」


 起き上がると、どうやらここはフィオナの部屋らしかった。簡素ながらも、どこか女の子らしい整った部屋だ。


 そして俺が枕にしていたのは、フィオナの太ももだった。


「やっと起きたわね」


「フィオナ……」


 俺を吹き飛ばしたとは思えない程の優しい笑みに、逆に身構えてしまう。


 これは怒っているのだろうか。それとも呆れているのだろうか。


「ごめんね。覗くつもりなんて無かったんだ。せっかくの初クリスマスだし、喜んでもらおうと思って……」


「大丈夫よ、分かってるわ。凪は覗きなんてしないわよね。吹っ飛ばしたりしてごめんなさい」


「いやいや、実際見ちゃったのは、その……事実だから」


 フィオナが赤面しながら弁明する。


「違うのよ、普段からしてる訳ではないのよ? ただ、凪とその……そういう関係になったでしょう? それで近い将来、そういう事もするのかなと思ったら、なんだか熱くなっちゃって……」


 二人して顔を赤くし、下を向く。相手の顔を見る事が出来ない。


「その、嬉しいよ。俺も将来的にはフィオナとさ……」


「そうね、将来的にはね」


 目の前には寝巻き姿のフィオナがいる。


 自然と二人の距離は縮まり、唇を重ね合う。


「フィオナ」


「凪」


 お互いの視線が熱を帯び、心臓が破裂しそうなくらい大きく鼓動する。


 将来的には、なんて言っておきながら。この状況で我慢なんて出来るだろうか。


「フィオナー! プレゼントが置いてあったんだぞ! サンタが来たんだぞ! 凪は忘れてたから、きっと本人だぞ!」


 ドン! と扉が開き、満面の笑みを浮かべたルッカが飛び込んできた。その手には俺が置いたプレゼントが握られている。


「「「あ」」」


 場の空気が固まった。


 俺はサンタの格好をしているし、フィオナといい雰囲気のまま至近距離で抱き合っている。


「あー……失礼したんだぞ?」


 来た時とは違い、今度はゆっくりと扉を閉めて出ていくルッカ。


 俺とフィオナは数秒固まった後、同時に叫んだ。


「ルッカ、違うのよー!」


「これは事故なんだよ!」


 何も違わなくても、違うと叫んでしまうのはお約束なのだろうか。


 結局、弁明虚しくルッカは、自分が眠ったのを見計らって俺たちがイチャイチャしていたと信じて疑わなかった。言い訳も無駄だった。


「やっぱり、急ぎすぎだって事なのかしら」


「そうかもね」


 二人して笑う。


 場の空気に流されてしまうのは仕方がないのかもしれない。だが、フィオナの事を本当に大事に思うのなら、自制も必要だと自分に言い聞かせる。


 今後の事もある。無計画に進んでしまえば、フィオナを傷付ける事になるかもしれないのだ。


「フィオナがさ、帰る手段が見つかった時にどうしたいのか決めるまで、俺は待つよ。今ならまだ、間に合うと思うから」


「凪……」


 今日、お互いの気持ちが通じ合った事で一時的に盛り上がっているだけかもしれない。


 冷静になった時、やはり帰る事を考えたら無かった事に――なんて可能性もある。


 だから俺は、フィオナの気持ちを大事にしたかった。


「この気持ちは本物よ。たとえ帰る事になっても、私は後悔しないわ」


「でも、判断は鈍るかもしれない。帰るつもりだったのに、俺が重荷になるのは嫌なんだ。ちゃんと、フィオナ自身の今後の事を考えて欲しい」


 フィオナは言葉を詰まらせた。


 それは、ないとも言い切れないとフィオナ自身が思ったからだ。


「焦らなくていいから。俺はフィオナの答えを待つくらいの事は出来るさ。さっきは空気に流されそうになったけど……大丈夫だよ」


 フィオナが俺の胸にぽすんと頭を預ける。そして小さく呟いた。


「ずるいわ。そんなこと言われたら、何も言えないじゃない」


 しばらくの間、そうして二人は寄り添っていた。


 こうして、激動のクリスマスイブの夜は更けていくのだった。

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