クリスマス・パーク
翌日の朝、俺は爆睡していた。プレゼント作戦を決行する為に休みを取っていて本当に良かった。色々あり過ぎて脳もお疲れモードなのだ。そんな俺を待ちきれないとばかりに、ルッカがウキウキとした顔で起こしにきた。
「凪、起きるんだぞ!」
「んー……もう五分だけ……」
「そんな漫画みたいなこと言ってないで起きるんだぞ!」
布団を剥ぎ取られて無理やり起こされた。眠たい目を擦りながら布団から這い出ると、急かすように布団まで片付けられてしまう。
「プレゼントを開けるんだぞ! 朝ごはんも出来てるんだぞ!」
どうやら開封は我慢していたらしい。微笑ましく思いながら、俺はルッカに「着替えるから」と声を掛け、先にダイニングへ行ってもらう。
身支度を整えて向かうと、既に朝ごはんが用意されていた。
「今日は御寝坊さんね」
そう笑うフィオナは、昨日の事など無かったかのようにいつも通りだった。
「おはよう、まぁたまにはね」
席に着くと、皆で食べ始める。昨日の夜が重めだったので、今日の朝はあっさりめのメニューになっている。
「今日も美味しいよフィオナ」
「ありがとう。そう言って貰えると作りがいがあるわ」
和やかな朝ごはんの時間を楽しんでいると、唐突に黒いモヤが発生した。カルミラたちがやって来たようだ。
「邪魔するぞ」
ヌッとモヤから顔を出すカルミラに、ルッカが食べながら答える。
「邪魔をするなら帰るんだぞ」
「それは失礼したのう」
本当に顔を引っ込めたカルミラに、俺は思わずツッコミを入れた。
「いや、新喜劇かよ!」
「ナイスツッコミじゃ凪よ。もう教える事は何も無いのう」
「最初から何も教えてもらってないよ」
何だか妙にテンションが高い。そう思っていると、モヤから這い出てきたカルミラの後に、ゼラとセレフィアも続いて出てきた。
「セレフィアはお店があるからよく会うけど、ゼラはなんだか久しぶりな気がするね」
「僕もそー思う。もっと遊びに呼んでくれたりしてもいーんだよ?」
プルプル震えながらそう言うと、ゼラは凪の肩へぴょんと飛び乗った。
「わっと」
少し驚いたが、ゼラは難なく着地する。
「それで、今日はどうしたのかしら。店は今日はお休みだって言ってあったわよね?」
フィオナの言う通り、今日は店を休みにしている。せっかくのクリスマスだし、皆で何かして遊ぼうかと話し合っていたのだ。
「わしらも混ぜて貰おうかと思っての。セレフィアから聞いたぞ? 今日はクリスマスとやらで遊ぶのじゃろ?」
「ルッカから聞いたもんねー!」
セレフィアがにししと笑う。どうやらルッカから話を聞いたセレフィアが、更にカルミラへ話したらしい。
「遊ぶのはいいんだけど、実はまだ何をするかも決まってないんだよね」
色々話し合ってはみたものの、これだというものに決め切れないまま今日を迎えてしまった。
「そうじゃのう。本番は夜じゃからな。夜はパーティをして、プレゼント交換などが良かろう。盛り上がる事間違いなしじゃ」
「まぁ、その辺は定番だけどね。それまで何をしようか」
問題は夜までの時間だ。皆で楽しめる何かを考えていると、俺はふとイーリンへ視線を向けた。
「イーリンも一緒に楽しめるようなのがいいな。外に出るなら認識をズラす魔法は必須だろうけど、出られない訳じゃないから色々選択肢があって迷っちゃうね」
「はーい! ルッカに提案があるんだぞ!」
キラキラした目をして、元気よく手を上げたルッカは、そのまま勢いよく提案する。
「皆でユ〇バに行くんだぞ!」
「ユ〇バかぁ」
俺はすぐさまスマホを取り出し、チケットの販売状況を確認する。
「やっぱりエクスプレス・パスは売り切れだね。クリスマスは激戦区だから……普通のチケットならなんとか買えそうだけど、アトラクションはあんまり乗れないかも。それでもいい?」
ルッカは残念そうに肩を落とした。
「そうなんだぞ……」
「まぁいいじゃない。クリスマス感を味わいながら楽しみましょうよ」
フィオナが優しくルッカの背中をトントンと叩いて慰める。
「認識をずらして順番を入れ替えたら早かろう? いくらでも乗れるぞ?」
そんな悪魔みたいな事を言うカルミラを、俺はすかさず窘めた。
「ダメに決まってるでしょ。悪用厳禁です。というか、アトラクションに乗る度に魔法を使わないといけないんだよ? 魔力が物凄く必要になるんじゃない?」
「そうね、ちょっと現実的じゃないわね」
フィオナも俺の言葉に頷く。自分たちの為に、他人の楽しい時間を奪うなんて許されるはずがない。
「僕は行ってみたいなー。楽しいところなんだよね?」
ゼラはすっかり乗り気らしく、楽しそうにプルプルしている。
「あーしも興味ある! 絶対楽しいっしょ!」
セレフィアも賛成なようだ。俺はそのままネットでチケットを購入する事にした。
「えーと、何人分必要なのかな」
「わしじゃろ? 凪とフィオナとルッカ、それにセレフィアで五人かの。ゼラとイーリンは子供枠で良かろう」
「じゃあ大人五枚と子供二枚でいいかな」
何とかチケットは購入出来た。後は時間との勝負である。
「よし、そうと決まれば急ごう。ユ〇バは待ってくれないぞ!」
急いで朝ごはんを片付けると、俺たちは出掛ける準備を始めた。カルミラたちは特に準備するものもないので、ダイニングの隅で俺たちが終わるのを待っている。
準備を済ませ、庭へ出るとイーリンを回収し、ゼラと共にフィオナに魔法を掛けてもらった。これで二人は周囲から子供のように見えるらしい。
「よし、行くぞ!」
俺自身、テンションが高まっているのを感じながら、皆で家を飛び出した。
電車に揺られる事一時間四十分。到着した頃には、ちょうど九時で開園時間だった。
俺はスマホを取り出してQRコードを表示させると、読み取り機へ翳す。そうして全員がゲートを潜り、中へと入っていった。
クリスマス当日ということもあり、パークの入り口から既に華やかな空気に満ちていた。巨大なリースに、赤と金の装飾。通りに響く陽気なクリスマスソング。見渡す限り、どこもかしこも祝祭一色だ。
「わぁ……本当に素敵ね」
フィオナが感嘆の息を漏らす。エメラルドの瞳は、きらきらと輝く飾り付けを映していた。
「すごい人なんだぞ!」
ルッカはきょろきょろと辺りを見回しながら、落ち着きなく胸を躍らせている。尻尾でもあれば、今頃ぶんぶん振っていたに違いない。
『はやく行こうよ!』
イーリンがホワイトボードを掲げる。もちろん周囲の人には、可愛らしい子供がボードを見せているようにしか見えていない。
「そうだね。でも、はぐれないように気を付けて」
「迷子になったら楽しむどころでは無くなるからのう」
黒い日傘をくるりと回しながら、カルミラがくすりと笑う。冬の日差しは弱いとはいえ、吸血鬼である彼女には少々眩しいらしい。
「お腹もペコペコになっちゃうねー」
ゼラがのんびりとした口調で言う。
「まぁまぁ、今日は一日遊び倒すっしょ! クリスマスとかテンション上がるし!」
セレフィアは両手を広げ、その場でくるりと回った。
七人で歩き出すと、それだけで周囲の賑わいが更に増したように感じられる。
まず彼らが向かったのは、〇ョーズだった。
ボートに乗り込み、静かな水面を進んでいく。最初は余裕そうだったフィオナも、巨大なサメが飛び出した瞬間、思わず凪の腕へしがみついた。
「きゃっ……! な、なかなか迫力があるのね」
「ふふ、少し驚いたかの?」
カルミラがからかうように笑う。
「カルミラだって、少し肩が揺れてたよ」
「み、見間違いじゃろ。わしは吸血鬼じゃぞ?」
俺の指摘に、カルミラはそっぽを向きながら強気に答えるのだった。
次に立ち寄ったのは、クリスマス限定のフードワゴン。温かなチュロスや、見た目も華やかなホットドリンクが並んでいる。
『これ食べたい!』
イーリンがボードを掲げて指差したのは、赤と緑のトッピングがされたクリスマス仕様のチュロスだった。
「僕もそれー!」
ゼラもぴょんぴょん跳ねて賛同する。
「じゃあ、皆で色々買って分けようか」
凪の提案に、全員が賛成した。
甘い香りに包まれながら食べ歩きを楽しみ、時にはショップを覗き込む。クリスマス限定のぬいぐるみやオーナメントに、フィオナとセレフィアは目を輝かせ、ルッカは細かな装飾の作りに感心しきりだった。
「この細工、なかなか見事なんだぞ」
「だねー、めっちゃかわいくて綺麗だよね!」
昼にはアトラクションをいくつも巡り、笑い声は絶えなかった。
そして、日が傾き始める頃。パーク中央にそびえる巨大なクリスマスツリーの前へとやって来る。
無数の光をまとったその姿は、昼間ですら圧倒的な存在感を放っていた。
「夜になったら、もっと綺麗なんだろうね」
凪がそう言うと、皆一斉に頷いた。
やがて空が藍色に染まり、ツリーへ灯りがともる。
その瞬間、周囲から一斉に歓声が上がった。
無数のイルミネーションが宝石のように輝き、まるで星空がそのまま地上へ降りてきたかのようだった。
「……綺麗」
フィオナがぽつりと呟く。
『すごいね!』
「キラキラだねー」
「これは見事じゃの」
「やば、めっちゃエモいんだけど!」
誰もがしばし言葉を失い、その光景へ見入っていた。
やがて始まった夜のショーでは、音楽と光、そして舞い散る雪の演出が一体となり、幻想的な世界を作り出した。
降り注ぐ白い雪に、イーリンとゼラは大はしゃぎだった。
『雪だー!』
「本物みたーい!」
セレフィアも笑顔で手を伸ばし、ルッカは降る雪を掌で受け止めようとしている。
カルミラは日傘を閉じ、柔らかな雪を見上げて目を細めた。
「こういうのも、悪くないの」
その表情は、とても穏やかなものだった。




