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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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修理依頼

 それから数日、フィオナたちは目の回るような仕事量に忙殺されていた。次々とやってくる客をレジで捌き、ルッカは二階に設けた作業部屋でひたすら修理作業を行っている。そしてセレフィアはというと、フィオナが纏めた商品情報を完璧に頭へ叩き込んで接客係としてその手腕を振るっていた。セレフィアはドライアドだがギャルである。その接客はまさしくプロ級だった。心の隙間へ自然と入り込むような、見事な接客術を披露している。接客を受けた客はみな満足そうに帰っていき、本当に凄いなと皆で感心していた。


 言葉を喋れないセレフィアのゴーレム隊には、受け答え用のマニュアルが配られていた。このマニュアルに沿って接客を行うのだが――


「すいません、このパソコンなんですけど……」


 客に話しかけられた一体のゴーレムが客へ向き直り、棚に引っ掛けていたスケッチブックを取る。そしてパラパラと捲ると、該当箇所を客の方へ向けて見せた。


『申し訳ありません。商品に関しましては専門スタッフをご案内致します』


 と、このように商品説明ができる本体へ繋げる仕組みである。


「ありがとうございます」


 客がまた一人、レジへとやってくる。お金を受け取り、商品を渡す。


「いやぁ凄いね、六つ子なんて初めて見たよ。みんなそっくりだね」


「はい、皆優秀な従業員です」


 そんなフィオナと客のやり取りがあった。セレフィアのゴーレム隊は現在五体。本体を合わせて六つ子という設定だ。少々苦しい設定ではあるが、事情があって喋る事が出来ないので筆談で接客していますと、店内にもポスターを貼っている。現状、それで特に問題なく店は回っていた。


 目の回るような忙しい日々を過ごしていたが、ある日を境に客の波が引いていくようにフィオナたちは感じ始めた。


「もうピークは終わったのかしら」


「そうみたい。毎日買い物に来るような店じゃないし、いつかは落ち着くと思ってたけど」


 フィオナの呟きに、セレフィアが答える。これで多少は落ち着けるだろう。


「これ、今日の分ね」


「おお!ありがと!」


 営業時間が終わり、片付けまで済ませると、フィオナがセレフィアへ給料を手渡した。セレフィアの給料は日払い制である。


「店が落ち着いても、働きに来てくれるのよね?」


「うん、あーしも稼ぎたいし。それにこの前カルミラにね、初めて貰った給料で五〇一の肉まんを買っていったら、泣きながら食べてたの! あーしも嬉しくなっちゃった!」


 セレフィアの話す情景が、ありありと頭の中に思い浮かぶ。なんとも微笑ましい光景だ。


「なら、頑張らなくちゃね」


「うん!」


 そうして話していると、ルッカも作業部屋から降りてきた。


「お疲れ様なんだぞ。いっぱい売れたんだぞ?」


「ええ、でも少し落ち着いてきたわね」


「やっとだぞ……売れるのは嬉しいけど、限度があるんだぞ」


 贅沢な悩みを零すルッカを、セレフィアが窘める。


「売れる時は全力で売らなきゃ! 何があるか分からないし、お金はあるに越したことないんだよ〜?」


「それは分かってるんだぞ……でも疲れるぞ」


 ルッカが肩や首を回すと、ゴキゴキッと凄まじい音が鳴った。


「お疲れ様なのはお互い様ね。とにかく、少しずつ余裕は生まれるでしょうから、それまではもうひと踏ん張りね」


 そうフィオナが言うと、三人で笑い合った。


 仕事から帰宅し、三人で晩ご飯を食べながら俺はいつものように今日の出来事を聞いていた。


「やっと落ち着いたんだね。大変だったでしょ。一番忙しい時に手伝えなくてごめんね」


「それは仕方ないわ。お休みが取れなかったのでしょう?」


「そうなんだよね。丁度仕事が忙しくなっちゃって」


 営業初日はともかく、SNSでバズってからは俺も手伝おうと休みを取ろうとしたのだが、生憎と仕事が殺到してしまい、休むに休めなくなってしまった。波のある仕事なので、暇な時は暇なのだが忙しい時はとことん忙しいのだ。


「その分、セレフィアが頑張ってくれてたんだぞ」


「セレフィアには感謝だね。文字通り六人分の働きをしてくれた訳だし」


 セレフィアがいなければ、そもそも客があんなに来る事はなかっただろうし、あれだけの客を捌く事もできなかっただろう。


「感謝は給料に反映するんだぞ」


「ん〜、資本主義〜」


 そんな会話をしながら、首から下げたペンダントを見てふと思い出した。


「そういえばさ、時々このペンダントを使って魔素が溢れてる場所を探してみたりしてるんだけど、中々見つけられなくて。今日帰り道で使ってみたら、初めてペンダントが反応したんだ」


 あれには驚いた。そういう機能なのだから、近くに魔素があれば反応するのは分かるのだが、ペンダントのボタンを押した瞬間、首から下げたまま宙に浮かび上がって光を放ったのだ。光は収束して矢印の形となり、一方向を示した。その方向へ進むと、空気が変わったような感覚があった。だがそれも一瞬の事で、矢印は消え失せ、その場で数度明滅した後に静かに消えた。


「何が起こってるのかは見ても分からなかったけど、多分魔素を吸ってたんだね」


「恐らくね。近くで何か見なかった? 原因になりそうなものとか」


 フィオナの問いに、俺はうーんと考える。だが、特に思い当たるものはなかった。


「特にそれっぽいのは……でも、白いうさぎが一瞬いたような気がするな」


 視界の端に、一瞬だけ白いうさぎが駆けていくのを確かに見た。


「うさぎね……関係あるのかは分からないわね」


 如何せん情報が少ない。珍しいとはいえ、ただのうさぎだ。その場に偶然いただけの可能性もある。


「何度も見かけるようなら、原因になってる可能性もなくはないんだぞ。捕まえるんだぞ」


「また見かけたらね」


 そうして賑やかに夜は更けていった。


 翌日。店を開け、フィオナ、ルッカ、セレフィアの三人が忙しなく働いていると、一人の男の子が入店してきた。


「いらっしゃいませ」


 相手が子供でも態度を変えず、律儀にお辞儀をして迎えるフィオナ。


「あの、このお店って修理したものを売ってるんですよね」


「ええ、そうです」


 フィオナが答えると、男の子は肩から提げた鞄の中から一つの腕時計を取り出した。


「これ、お父さんの時計なんだけど……昨日落として壊しちゃったの。大事にしてる腕時計だったから、なんとか直さなきゃって……」


 泣きそうな顔でそう言う男の子に、フィオナはどうしたものかと考える。現状、この店では修理依頼は受け付けていない。やるにしても、直すのはルッカの仕事だ。


「少しお待ちください」


 フィオナはルッカの作業部屋へ向かった。中には入らず、ドアをノックする。


「ルッカ。今、男の子が来ているのだけれど、持ち込みの腕時計を直して欲しいそうなの。どうしようかしら」


「今行くんだぞ」


 ガタガタと音がし、少しするとルッカが部屋から出てきた。


「受けるの?」


「考え中なんだぞ」


 修理依頼を受けるとして、これからも受けるのか。それとも修理依頼は全部断るのか。今後の事も踏まえながら、ルッカは考えつつ店へ向かう。


「お待たせなんだぞ。どれだぞ?」


「これです」


 男の子が差し出した腕時計は、スイス製の高そうな腕時計だった。大事にしている時計だと言うし、さぞ困った事だろう。


「分解してみないと分からないけど、部品が壊れてたら修理にも時間が掛かるんだぞ。それでもいいんだぞ?」


「どうしよう……あんまり時間が掛かると、お父さんにバレちゃう」


 困った顔をする男の子の頭を、フィオナが優しく撫でながら諭すように言う。


「壊してしまったものはしょうがないわ。素直に謝って、修理するか相談したらどうかしら。直すのにもお金は掛かるもの」


「うん……相談してみる」


 肩を落とす男の子に、ルッカはニッと笑った。


「とにかく、一度分解してみるんだぞ」


 言うが早いか、神業じみた速度でルッカは時計をあっという間に分解してしまう。


「んー……やっぱり部品が壊れてるんだぞ。一度相談した方がいいんだぞ」


「分かった……」


 男の子は肩を落としながら腕時計を鞄へしまい込み、そのまま帰っていった。


「可哀想だけれど、こればかりはね」


「勝手に預かる訳にもいかないんだぞ」


 あまり怒られなければいいけれど、とフィオナは小さくため息をついた。


 それから何事もなく数日が過ぎた。開店作業にも慣れ始めた頃、再びあの男の子が店へやってきた。


「あの、この間の時計なんですけど……修理お願いしてもいいですか? 他のお店だと、部品が無いらしくて修理は無理だって言われたんですけど……」


 どうやらこの子の父親は時計を正規ディーラーへ持って行ったらしい。だが型が古く、部品がもう存在しないと言われたそうだ。他の時計屋でも同様だったと、男の子は泣きながら話した。


「大人になってからお金を貯めて、初めて買った時計だって言ってた。直せるなら直して欲しいです」


「分かったんだぞ、任せるんだぞ!」


 ルッカは腕時計を受け取った。


「綺麗に直してあげるんだぞ」


「ほんと? 直る?」


「大丈夫だぞ。心配いらないんだぞ」


 男の子はようやく泣き止んだ。涙で濡れた顔のまま、男の子は笑う。


「ありがとう、お姉ちゃん」


 数日後に引き渡すと約束し、男の子は帰っていった。


「やっぱり受けるのね」


「あんなに泣いてて可哀想なんだぞ。断れる訳ないぞ」


 フィオナとルッカは苦笑する。


 こうして二人は、これからは修理業務も請け負っていこうと決めたのだった。

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