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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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宣伝効果

 その日は唐突にやってきた。店を開いてから数日間、やって来た客は初日の小日向たちだけだったというのに、その日は開店準備を始めた瞬間から、店先に人が並んでいたのだ。


「え? ……え?」


 開店作業をしていたフィオナは、困惑した表情のまま固まっていた。少しずつ客足が伸びてくれればいいな、その程度に思っていたのに、どうして急に行列が出来ているのか理解が追いつかない。


「い、いらっしゃいませ。どうぞ店内へお入りください」


 戸惑いながらも扉を開けると、客たちが続々と店内へ流れ込んでいく。最後尾までなんとか入店出来たものの、元々そこまで広い店ではない。あっという間に店内が人で埋まった。


「お? お?」


 レジ前で椅子に座っていたルッカも、目を丸くしたまま言葉を失っている。


「うわ、これ本当に置いてあるのか!」

「こっちも掘り出し物じゃん、この店ヤバいな」


 客同士の会話が耳に入るが、フィオナには何がそんなに凄いのかいまいち分からない。ルッカの指示通りに値札を付けているだけなので、なおさらだった。


「ありがとうなんだぞー! お買い上げなんだぞ!」


 最初こそ呆然としていたルッカも、すぐに持ち前の愛嬌を発揮し、ニコニコしながらレジ対応を始めていた。


「応援してます! 頑張ってください!」

「お? ありがとうなんだぞ!」


 手を握られ、ブンブンと上下に振られながら応援されているルッカ。そんな客が何人もいた理由を、今の二人はまだ知らない。


「な、なんとか捌ききったわ……」

「こんなに売れるなんて予想外なんだぞ……」


 閉店後、カウンターに寄り掛かった二人はぐったりしていた。


 家電やゲーム類を扱う店で、開店直後からここまで客が押し寄せるなど普通は想像しない。ルッカが修理して並べていた商品たちも次々に売れていき、棚はすっかり寂しくなっていた。


「また修理していかないといけないんだぞ」


 まだ裏には在庫がある。だが、このペースで売れるなら数日も持たないだろう。


「ルッカは修理に専念した方がいいんじゃないかしら……でもそうなると、お店が私一人になってしまうわね」


 腕を組みながら悩むフィオナに、ルッカも「むむむ」と唸り声を上げる。


「二人でも大変だったのに、一人は無茶なんだぞ」


 そんな風に二人で頭を抱えていると、見慣れた黒いモヤが現れた。


「お困りかのう?」

「お困りよ?」


 短いやり取りなのに、妙な信頼感があった。変な悪戯や迷惑行為も多いカルミラだが、根っこの部分では悪いやつではない。それはフィオナも理解している。


「で、あるからして! あーしの出番なのだ!」


 キャピン! という勢いでモヤから飛び出してきたセレフィアが、シュタッと綺麗に着地を決める。そのまま両手を水平に広げ、体操選手のようなポーズを取った。


 そしてカルミラが横で、小さな丸いプラカードを掲げる。


『10点』


「何をやっているのよ……」


 思わず呆れた目を向けるフィオナだったが、セレフィアは気にした様子もなく胸を張った。


「それで? なんで急にこんなにお客さんが増えたのかしら。昨日までは全然だったのだけれど」


 フィオナが尋ねると、セレフィアはひらひらと手を振る。


「そんな畏まらなくていいってー。あーしとフィオナ、もう友達っしょ? で、答えだけど、あーしのポストがバズったの! あとホームページも完成してたから見てみたけど、中々良い感じだったよ。ほら!」


 見せられたのは、小日向が作ってくれると言っていたホームページだった。


 店内写真に加え、店長としてフィオナ、そして店を手伝うルッカの写真まで掲載されている。


「美人店長と可愛い店員! そりゃ応援したくもなるっしょー!」


「なるほど……」


 フィオナとルッカは顔を見合わせた。やたらとルッカが応援されていた理由も、これで納得である。


「そしてこれが、あーしが作った公式アカウント!」


 スマホに映し出されたアイコンは、ハンマーとタブレットを扇状に組み合わせたロゴだった。ルッカとセレフィアが相談して決めたものらしい。実は店の前にも、フィオナが木を削って作った同じロゴが飾られている。


「凄いんだぞ……!」


 ルッカが画面を見て目を輝かせる。


 アカウントでは、修理した商品をいくつか紹介していたのだが、絶版品や状態の良い現存数が少ない商品が、新品同様に修復されている事にコメント欄は騒然としていた。


「良い物が綺麗で、しかも安い! 理想的なバズり方だね!」


 ドヤ顔で胸を張るセレフィアに、フィオナは苦笑しながら頷いた。


「ええ、私は詳しくないけれど……ルッカが修理した物が、こうして評価されるのは嬉しいわね」

「嬉しいんだぞ!」


 二人で喜んでいると、いつの間にかモヤから這い出していたカルミラが、にゅっと割り込んできた。


「じゃが、その分忙しかろう? そこでじゃ、セレフィアの希望もあっての。お主らの店で雇ってやってはくれぬか?」


 フィオナとルッカは顔を見合わせる。


「働くって、お店に立つという事かしら?」

「そうそう! あーし植物系だから移動遅いし、カルミラたちとイリス探すのも効率悪いんだよねー。それならここで働いて、お給料貰えたら皆ハッピー! ナイスアイディア!」


 グッと親指を立てるセレフィアに、ルッカは両手を上げて喜んだ。


「大歓迎なんだぞ! いっぱい売れたし、この調子なら給料も出せるんだぞ!」

「それはいいのだけれど……セレフィアって、見るからに植物でしょう? 問題ないのかしら」


 いざとなれば魔法で誤魔化す事は出来る。だが、それにも魔力は必要だ。


「大丈夫大丈夫! 見てて!」


 セレフィアが「むむむ」と力を込める。すると、葉の色はそのままに、徐々に植物っぽさが薄れていった。


 そして最終的には、完全に人間の少女にしか見えない姿へ変わる。


「じゃーん! 変幻自在、自由自在!」

「「おー……」」


 フィオナとルッカが揃って感嘆の声を漏らした。


 そのままセレフィアは店内を歩いて見せる。見た目だけなら普通の女子高生そのものだ。


「姿は変えられるけど、早く走ったりは無理だからねー。店の中を歩くくらいなら問題ないよ」

「十分助かるわ」

「でもセレフィアと二人になるんだぞ? それで回るんだぞ?」


 今日ですら、フィオナとルッカの二人で走り回ってようやくだったのだ。


「それも問題なし! ちょっと庭に出て!」


 セレフィアに促され、三人で庭へ向かう。


 するとセレフィアは某映画のようにしゃがみ込み、一気に体を伸ばした。


 次の瞬間――地面から、何体ものセレフィアが生えてきた。


「植物だからね! こういう事も出来ちゃうのだ!」


 本体と同じ姿をした分身体たちが、一列に並んで綺麗に頭を下げる。


「凄いわね……全部操れるの?」

「操るっていうより、自立思考かなー。植物版ゴーレムみたいな感じ!」


 なんとも規格外な力だった。流石はドライアドと言うべきだろう。


「喋れないし融通は効かないけど、命令しておけば休み無しで働けるよー!」

「凄いんだぞ! 求めてた人材なんだぞ!」


 ここだけ切り取れば、ブラック企業の面接現場みたいな会話である。ゴーレムなので労働基準法も何もない。


「さぁ! キリキリ働いてもらうよぉー!」


 一斉に敬礼するセレフィアゴーレム隊。


『ぐぬぬぬ』


 少し離れた場所から、羨ましそうにその様子を眺めるイーリンの姿があったのだが、誰も気付かなかった。


「じゃあせっかくだし、お店の掃除を手伝って貰おうかしら」


 こうして始まった人海戦術により、店内はあっという間にピカピカになったのであった。


「なるほどね、人手が増えたのは良かったね」


 帰宅した俺は、いつものようにフィオナたちから今日の出来事を聞いていた。


「ええ、おかげさまでね。しばらくは忙しいみたいだけれど、徐々に落ち着くと思うってセレフィアも言っていたわ。その間は、ゴーレムたちにも手伝って貰うつもりよ」

「それって魔力は必要ないの?」


 俺が尋ねると、フィオナは首を横に振る。


「多少は必要みたいね。ゴーレムを動かしている間は、薬草畑に根を張らせてほしいって頼まれたわ。畑の魔素を吸って補充するそうよ」


「なるほどねぇ……」


 本当に有能過ぎる。ちょっと怖いくらいだ。


「これで当面は問題なさそうかな?」

「売れた分の修理が大変なんだぞ……」


 ルッカがぐったりした顔で呟く。


 簡単な修理ならすぐ終わるが、パーツ交換が必要な物は時間も掛かるらしい。


「とりあえず、簡単な修理で済む物から直して数を確保するんだぞ」

「頑張って」


 休みの日くらいは手伝うつもりではある。だが、基本的にはフィオナとルッカの店だ。


 俺に出来るのは、こうして応援する事くらいだった。

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