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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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賢者の芽吹き

 眠れぬ夜を過ごし、気がつくともう日が昇り始めていた。

「全然眠れなかった……」

一睡も出来ず、眠たい目を擦りながら仕事へ行く為の用意を済ませて部屋から出ると、いつも通りフィオナが朝ご飯の用意をしてくれていた。

「おはよう凪、今日は早いのね」

「おはよう。目が覚めちゃったからね、そのまま起きてきたんだ」

「ふうん、そうなの」

包丁を握っていた手を止め、一度まな板の上に置いてからフィオナが近付いてくるので、俺は少し慌ててしまった。

「ど、どうしたの?」

「……先に顔を洗って来た方がいいわね」

目ヤニでも付いていたかなと思いつつ、洗面台の前に立って鏡を覗き込む。そこに映っていたのは、目の下に隈が出来た俺だった。

「こんな分かりやすく隈って出来るんだな……」

そう呟きながら顔を洗う。これ、寝れなかったのバレたかな……。

その後は普段通りにルッカを起こしに行ってから、みんなで朝ご飯を食べ、仕事へ向かった。


 凪が仕事に出てから、フィオナは朝食で出た洗い物を片付けていた。

「凪ったら、押したわね」

一人、小声で呟きながら洗い物をするフィオナの顔は赤い。


 その時が来たら伝えたらいいと、最初は思っていた。だが、またとない伝える機会に恵まれて、思わず録音してしまったのだ。

 実際もし帰る手段が見つかった時に、自分が帰る事を選択したら凪は怒るだろうか。なぜ伝えたのかと。別れが辛くなるだけじゃないのかと。


 それでも伝えたいと思ったのは、自分の我儘だ。


 自分の気持ちを自覚してから、一緒に過ごす毎日で日に日に大きくなる感情に、フィオナ自身が振り回されていた。

「こんなに辛いものなのね……」

振り回されている自覚はあるが、だからといってどうする事も出来ない。上手く折り合いをつけていくしかないのだ。


「どうしたんだぞ?」

食後のコーヒーを嗜みながらスマホでポチポチしているルッカに問われ、思考の渦から帰ってきたフィオナは、なんて答えようかと一瞬悩む。

「別に、なんでもないわよ」

なんとなく誤魔化してしまったが、ルッカは「ふーん」とだけ言って自室へ戻って行った。


 少しすると、何かを抱えてダイニングへ戻ってくる。

「これ、あげるんだぞ」

「なに、これ」

何やらウネウネした細長いものを渡され困惑していると、ルッカが自慢げに説明をしてくれた。

「新作なんだぞ。これを使えば、あっという間に悩みなんて吹っ飛ぶんだぞ!」

「どういう物で、どう使うかを聞いているのだけれど」

「入れるだけなんだぞ」

「何を? 何処に?」

猛烈に嫌な予感に襲われたが、案の定ろくなものではなかった。

「これを、ここに」

ウネウネしたものを指差し、次に股の部分を指差す。つまりはそういう事である。

「一発で悩みなんてどうでもよくなるんだぞ」

「あなたねぇ、なんてものを作っているのよ!」

思わず大きな声を出してしまったが、ルッカは平然としていた。

「色々本を読んでたら、面白そうだからつい作っちゃったんだぞ。後で感想を教えて欲しいんだぞ」

「使わないわよ!」

渡されたウネウネを持って叫んだ。


 なんだかんだ部屋に持ち帰るくらいには、フィオナにも興味があったようであった。


「全く、ルッカは何を読んであんなものを作ったのかしらね」

庭へ作業をする為に向かいながらぼやくフィオナだったが、庭に出てすぐ違和感に気付く。

「あら? こんな大きい植物を植えたかしら」

身に覚えのない大きな葉のついた苗木が、薬草畑に植わっていた。訝しみながらもじっくり観察してみたのだが、あちらの世界でもこちらの世界でも見た事のない植物だ。赤色から黄色にかけてのグラデーションになっている。美しいとも言えるが、毒々しいとも思える。

「薬草に影響が出るのも困るわね……」

単に薬草と言っても、複数の種類を植えている。傷を癒す薬草から、魔力の回復を助ける薬草、果ては病気や疾患に免疫力を付ける薬草まで様々だ。この見た事のない何かがどんな影響を及ぼすのか、まるで予想がつかない。


 フィオナはとりあえず引き抜いて調べてみようと、葉の根元を掴んで思いっきり引っ張った。


「痛い!」

「ん?」

どこかから声が聞こえたような気がして、掴んでいた手を離すと辺りを見渡してみるが、誰の姿も見えない。


 もう一度掴み直して勢いよく引っ張ろうとしたところで――


「やめて! 自分で出るから! これ以上引っ張るのはやめて!」


 掴んだ葉が独りでに揺れ始めたかと思うと、スポン! と土から何かが飛び出した。


「じゃーん! あーしでした!」

キラキラとした目で見つめるそれは、美少女……のような植物だった。カラフルな葉は頭の一部で、まるで髪の毛のように生えている。薄緑の肌に、頭と同じ色の葉をまるでドレスのように身に纏っていた。

「えーと、貴方は?」

「あーし? あーしはセレフィア! 植物界の頂点にして至高、アイドルにして救世主! そしてその正体は……ドライアドなのだ!」

「貴方が!?」

ドライアドとは、フィオナ達が住む世界において森の統治者、全ての植物の生みの親と言われる程には名を轟かせる森の賢者の種族である。魔族に一応分類はされるものの、その本質は精霊や妖精の類で、信仰の対象だ。大陸に存在するありとあらゆる森はドライアドが管理している。


 フィオナはセレフィアに対して膝をついた。


「これは失礼を。掴んでしまって申し訳ありません」

「いーのいーの、知らなかったのならしょーがない! あーしは優しいからそんな事で怒らないの」

妙にキャピキャピしているのが気になるが、それにしたって何故こんな場所にドライアドが居るのだろうか。

「ところで、どうしてこのような場所に植わっていたのでしょう?」

「あーしね、気がついたら知らない場所に飛ばされてて、どーしよって思ってたんだけど、とりあえず近くの栄養満点な畑に植わってたのね。それはまだ良かったんだけど、空気は悪いし魔素も無いしでもー最悪! しばらくそうしていたら、魔素の豊富な畑を見つけたから、こっちに引っ越してきたの!」

「そ、そうなのですね……」

恐らくカルミラと共に飛ばされたドライアドだろう。名前も一致する。ドライアドは植物であるので、食事を取らずとも光合成で栄養が取れる為、ずっと植わっていてカルミラも見つけられなかったのだろう。

「とにかく、セレフィア様はカルミラのお仲間ですよね? 探しておりましたよ。少し時間はかかりますが連絡しますので、今しばらくこちらで植わっていて貰えますか?」

「ほんとに!? 良かったー。一緒に飛ばされてるだろうなとは思ったけど、どうやって探そうか悩んでたの」

そう言ってションボリするセレフィアに、フィオナは笑いかける。

「もう大丈夫です、安心してください。ここは安全ですから」

そう言ってタブレットから凪に向けて、セレフィアについてのメッセージを送った。

「じゃあそれまで植わって待ってるから! しくよろー!」

それだけ言い残すと、再び土の中へ潜っていった。


「うおおセレフィア、心配したのじゃぞ!」

俺が仕事をしているとフィオナからメッセージが届き、すぐさま連絡を取った。俺の帰宅に合わせて家に来るとの事だったので、仕事が終わると急いで家へ帰った。


 話に聞いた通り、セレフィアは庭の薬草畑に植わっていた。


「また会えて良かったよー! まじでもう二度と会えないのかと思ったー!」

感動の再会なのだが、どうしてもセレフィアのギャル口調が気になって仕方がない。

「良かったね、再会出来て。ところで、セレフィアのその喋り方って、ドライアドだと普通なの?」

「まぁ多少の違いはあるが、概ねその通りじゃな。陽気な奴らなのじゃ」

どうやらドライアドは全員ギャル口調らしい。各地に点在しているので集落のようなものは無いらしいが、集まるとカオスな空間になりそうだなーとふんわり思った。


「これで残すところはイリスだけじゃな。あれだけ探しても見つからなかったのに。やはり凪は持っておるのう」

なんというか、運命力みたいなものなのだろうか。


 じいちゃんの残した本から始まり、フィオナとルッカに出会った。そこからは流れでイーリンにカルミラ、そしてその仲間たちと、次々に異世界に縁のある者たちが集まった。


 これが因果というやつなのだろうか。


 まぁイーリンは前の家の庭で誕生したようなものなので、カウントしていいのかは微妙なのだが。


「何はともあれ、本当に良かった。今日はお祝いしないとね」

こんな事もあろうかと、この家にはバーベキュー用のグリルがある。よくあるドラム缶を半分に切ったような見た目の中に炭を入れるやつだ。

「材料だけは買ってこないといけないけど」

「なら、私たちが買いに行くわ。帰ってきたばかりで疲れているでしょ? ルッカ、行くわよ!」

「えー! 私も行くんだぞ?」

完全に傍観者に徹していたルッカが急に買い物へ行く事になり、ぶーたれるが、フィオナの「焼肉よ? 食べたくないの?」という言葉で意見を翻した。

「ルッカに任せるんだぞ! いい肉を沢山買ってくるんだぞ!」

「程々のやつでお願いね……」

全員に笑顔が浮かんだ。


 その日の夜は、遅くまで盛り上がって酒も大量に消費された。


 翌日残されたのは、重い二日酔いに悩まされる無惨な骸たちの姿であった。

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