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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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独白の録音

『デレデレして情けないわよ、シャンとしなさい!』

『そんなに死にたいなら、いつでも引導を渡してあげるわよ』

『余計なものばかり見る目なんて、必要ないわよね。抉る?』

「……」

これは、いつの間にやら録音されていた音声である。引越し記念のパーティーを催した翌日の朝、目を覚ました俺は余韻が冷めやらず、フィオナにASMR用の音声を頼む方法はないかと半ば真剣に考えながら、なんとなくボタンを押して流れた音声がこれだった。

なんだかいつも以上にはっちゃけているなと感じながらその音声を聞いていたのだが、俺も朴念仁というわけじゃない。言葉の裏には、色々思うところがあるだろうというのを察することはできる。いずれ訪れるであろう別れのことを考えなければ、俺だってそういう気持ちがないわけではない。広くなった部屋の布団の中で、しばしの間悶えていた。


「凪、起きてるかしら」

ノックの音とともに、フィオナの声がする。

「お、起きてるよ」

声を掛けられる瞬間までフィオナのことを考えていた為か、少し声が上ずってしまった。

「昨日のペンダントなのだけれど……少し借りてもいいかしら」

「え、ああうん。いいけど」

部屋の扉を開け、フィオナにペンダントを渡す。渡す途中、なんだか顔をじっと見られている気がして、俺は少し気恥ずかしくなり視線を逸らした。

「もしかして、押した?」

ジトーとこちらを見る目に耐えかねて、俺は白状した。

「うん、聞いちゃった」

フィオナは頬に手を当てて、困ったわとでも言いそうな顔で弁明を始めた。

「昨日、カルミラが持ってきた中に、お酒が混じっていたみたいで、気づかずに飲んでしまっていたみたいなの。少し気持ちが昂りすぎて……だからね、分かるでしょ?」

凄みのある笑顔を向けられた俺の答えなど、決まっている。

「うん、忘れた。内容なんて覚えてもないよ」

そうか、酒の影響か……フィオナの気持ちがどうとか考えていたのが、少し恥ずかしい。

「そう?ならいいのよ」

いつも通りの笑顔に戻ったフィオナに内心安堵しつつ、一度部屋に戻ると仕事の支度を整える。ダイニングへ行き、フィオナの作ってくれた朝食を食べると家を出た。今までと違う通勤の風景には、少し心が弾んだ。


「おはようございます、どうですか新居は」

「いやぁ、やっぱり嬉しいもんだね。ずっと興奮冷めやらずって感じだよ。声をかけてくれて、本当にありがとう」

出勤早々に小日向に声を掛けられ、俺は満面の笑みでそう答えた。家を紹介してくれた小日向には、本当に感謝しかない。

「気に入って貰えたのなら良かったです。祖母も喜んでいると思います」

「みんなも大満足だよ。もう少ししたら、お店も始められそうだしね」

「いいですね、開店したら是非声を掛けてくださいね。お客さん第1号になりますよ」

「来てくれたらルッカも喜ぶよ」

そうして会話をしながらも、仕事をこなしていく。


 一方その頃、フィオナは庭で作業をしていた。

「これくらいでいいかしら」

魔力を使い、いくつか薬草の種を生み出しては土に埋めていく。そうして庭の一角に薬草畑を作ると、魔素が逃げないように魔道具のピンを畑の四隅に刺し、簡易的な結界を作った。この結界は魔素の出入りを制限する機能しか持っていない。ルッカの手作りである。そうして閉じられた空間の中に、これまたルッカの手作りである魔道具を使って魔素を満たしていく。魔力を流すことで魔素に変換し、周囲にばら撒くだけの魔道具だ。

「よし、これでいいわね」

準備は整った。あとは順調に育てば、薬草を使ってポーション等を作成することができる。

「そういえば、流石に薬研とかは揃えないとダメね。売っているかしら……」

タブレットで検索を掛けると、意外と普通に売っている。

「あら、安いわね」

高いものも当然あるが、安いものだと五千円くらいで売っていた。とりあえず一番安いものを選んで購入手続きをした。一通り作業が終わり、片付けると家の中に入る。ちなみに、店舗部分と居住部分にそれぞれ出入口が作られている。まだ開店していないので、店舗側の出入口から中へと入ると、店のスペースではルッカが修理した家電やらを並べていた。

「どう?捗ってる?」

「うーん、修理して並べるのはいいけど、値札を付けるのが面倒臭いんだぞ」

陳列棚を見てみると、商品の横にルッカの手書きで値札が置いてある。画用紙を三角の形に折り曲げて数字を書いただけの簡易的なものだが、それよりも字が雑で少し汚い。

「もう少し綺麗に書きなさいよ……」

「いっぱい書いてると、何が何だか分からなくなるんだぞ」

数字の書きすぎでゲシュタルト崩壊を起こしているらしい。はあとため息をついたフィオナが値札を回収していく。

「私が書き直すから、ルッカは修理と陳列だけやっておきなさい」

「ほんとか?助かるんだぞ」

ルッカから商品の一覧と値段表を受け取り、自室へと戻る。

「結構あるわね……」

分かっていたことではあるのだが、なかなかの量がある。ルッカが雑に書いてしまうのも、仕方がないのかもしれない。

「よし、もう少し頑張りますか」

せっかく凪がお店を用意してくれたのだからと、一つ気合いを入れ直すと、フィオナは机に向かって一心不乱に数字を書き始めるのだった。


「ただいまー」

俺が家に帰ると、いつもであればフィオナあたりは出迎えに来てくれるのだが、今日はその気配はない。引越して間もないし、することも多いのだろうと思う。気にせず中に入っていくと、ダイニングで突っ伏している二人の姿を見つけた。

「二人とも大丈夫?」

「あー、疲れたわ……出迎えに行けなくてごめんなさいね」

「ルッカの屍を越えていくんだぞ……」

どうやら相当お疲れのようだ。

「畑の方はすんなり終わったのだけれど、ルッカの修理した物が多い上に雑多に纏めてあるんだもの。値段を付けて並べていくだけで一苦労だったわ」

「なるほどね、それは大変だ」

やはりルッカ一人では細かな部分に手が届かないらしい。予想は出来ていたことだが。

「それと、これ返すわね」

「もういいんだ。中身は消したの?」

「当たり前よ、その為に回収したのだから」

朝に回収されたペンダントの魔道具を渡され、受け取る。内容はともかく、いつでもフィオナの声が聞けたのだと思うと、少しだけ名残惜しい気持ちもある。

「ちゃんと中身は消したけれど、消してすぐは誤作動もあるかもしれないから、ボタンは押さないでちょうだいね。いい?絶対よ?」

「うん?分かったよ」

なんとか倶楽部みたいなやり取りをフィオナとしていると、ルッカが再起動した。

「まあともかく、これで準備はできたんだぞ!いつでも店を始められるんだぞ!」

「連絡が来たらすぐ古物商を取りに行くから、それまで待っててね」

疲れた顔はしているが、二人ともキラキラとした表情をしている。新しい生活は、始まったばかりなのだ。


「ふぅ、さっぱりした」

風呂から上がり、自室で布団に潜りこむ。夜になるともう肌寒く感じる。もうすぐ暦は十二月だ。

「そうだ、ペンダント」

フィオナから返されたペンダントを見る。せっかくペンダントの形になっているし、必要な時がいつ来るのか分からないので首から下げるようにしている。

「あれだけ押すなって言われたら、押したくなるよね」

これに関しては最早伝統芸能と言ってもいいだろう。むしろ押さない方が失礼なのではないかとすら思える程だ。

ドキドキしながら、指をボタンにかける。そして、ポチッと押した。


『押したわね、あれだけ押すなって言ったのに……バカね』


心の中に、なんとも言えない気持ちが溢れる。声が入っていて嬉しいが、フィオナは一体どう思ってこの音声を入れたのだろうか。その答えも、しっかりと録音されていた。


『またとない機会だし、言わせて貰うわね。私は、きっと凪の事を好きなんだと思うの。今まで恋愛とか考えた事も無かったし、縁がないとも思っていたわ。家の都合で嫁がされるかもとは思っていたけれどね。最初こそ事故でこちらの世界に来てしまって、なし崩しみたいにお邪魔する事になったけれど、出会ったのが凪で本当に良かったと思うの。たくさん親切にして貰ったし、楽しい事もいっぱいあった。今まで感じた事のない嬉しいが、いっぱい溢れていたわ。言葉にするのは難しい部分もあるのだけれど、薄々は感じていたの。好きになっていってるなって。それがこの間の恋愛ゲームで、自覚させられてしまったわ。私、やっぱり凪の事が好きになってるんだなって。でも、元の世界に帰る事を諦めるつもりもないし、凪とも離れたくないって今は思ってる。我儘を言うようだけれど、私は悩んでいるの。この先、帰る手段を見つけた時に私はどうするのだろうって。実際その時が来ないと分からないけれどね。もしこの音声を凪が聞いたのなら、一旦私の気持ちを心の隅にしまっておいて欲しいの。どんな答えを出すかは分からないけれど、もし凪も同じ気持ちでいてくれるなら……その時は、答えが出るまで待っていて欲しいの。我儘な女でごめんなさい』


ポタっと手が濡れる感触に目元を触れると、涙が零れていた。

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