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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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ビフォーアフター

「さて、テキパキ進めようか」

「やるんだぞ!」

ルッカのマジックバックから荷物を出しては運んでいく。施されたリフォームにより、店部分のスペースは少し狭くなったものの、その分ダイニングが広くなった。机や椅子は撤去され、その代わりにお手製の陳列棚が等間隔に並んでいる。そこにルッカが修理した家電やら何やら色々と並べていく。こだわりがあるようで、ああじゃないこうじゃないとブツブツ言っている。フィオナはイーリンたち野菜組を庭に連れて行き、区画分けをしているようだ。魔素を満たした空間と、そうでない空間で分けるらしい。


「ふう、だいたい終わったかな?」

「わーい、だぞ!」

マジックバックで運んだ荷物を粗方片付け終わった。お店も綺麗に陳列され、今すぐにでも店が始められそうな形には整った。


「あっという間に終わったわね、マジックバック様々ね」

ニッコリとフィオナが笑う。それには俺も完全同意だ。


「そろそろご飯にしようか。引越し祝いに、贅沢しちゃうか」

「贅沢!?何を食べるんだぞ!?」

ワクワクした顔でルッカが目を輝かせる。


「出前ピザなんてどう?」

「ピザ!美味しそうなんだぞ!」

「フィオナもそれでいい?」

「ええ、楽しみね」


スマホで注文画面を開き、ピザを選んでもらう。その時、足元をグイグイ引っ張られるのを感じて下を見ると、そこにはイーリンの姿が。


『ぼくも選びたい!』

「ああ、ごめんごめん」

イーリンを抱えてスマホの前に座らせる。みんなでピザを選ぶその光景はなんとも微笑ましい。


注文を済ませ、それぞれ思い思いの時間を過ごしていると、配達員が到着して支払いを済ませる。受け取ったピザをルッカが嬉しそうにダイニングの机に並べていく。


「それじゃ、引越し祝いという事で。乾杯!」

「乾杯だぞ!」

「乾杯!」

『かんぱい!』


グラスに注いだジュースで乾杯し、一口ピザを食べる。


「うん、美味しい。たまに食べたくなるんだよね」

「ええ、美味しいわ。上に沢山乗せられたチーズがたまらないわね」

「美味いんだぞ!」

『おいしー!』


どうやら大満足なようだ。


「随分と楽しそうじゃのう」

黒いモヤのような物が生まれ、そこからカルミラが顔を出した。


「いらっしゃい、引越しのお祝いだからね」

いつも驚いてばかりだったが、この唐突な現れ方にも慣れたものだ。だがカルミラはそれが少し不満であるらしい。


「随分冷静だのう。もっと慌てふためく様をわしは期待しておるのだが」

「僕もいるんだよー」

ひょこっと隙間からゼラが顔を覗かせる。


「ゼラもいらっしゃい。覗いてないで入ってきなよ」

そう言うとカルミラはよいしょと黒のモヤから身を乗り出して出てくる。続くようにゼラもぴょんと飛び跳ねて床に着地した。


「どうしようかな、カルミラとゼラの分はピザ注文してないんだよね……何か買ってこようか?」

「それには及ばぬ。お祝いじゃし、土産もある故な」


黒のモヤに手を突っ込み、何かを探すようにゴソゴソとしていると思ったらすぐに見つけたらしく、「これじゃこれじゃ」と引っ張るように取り出す。


「これを見よ!チキンじゃ!」

それはバーレルに入った、某有名チェーンのチキン盛り合わせであった。


「まさか、忍び込んで盗んだりしてないよね?」

「失礼じゃのう、ちゃんと買ったわ。お主から血を貰えるようになった故な、こううまいことしての……バイトを始めたのじゃ!」


なるほど、うまいことして……身分証の偽装とか、洗脳とか?まぁ深くは突っ込むまい。生活基盤は大事だし……


「そ、そうなんだね。疑ってごめん。ならさ、ピザとシェアして一緒に食べない?」

「よいのか?」


カルミラは勿論、ゼラも期待の眼差しでこちらを見ている。俺は笑いながら「もちろん」と答えつつ、みんなにも「いいよね」と確認を取ると、笑顔で了承してくれた。


「チキンも食べられるなんていい日だぞ!」

「たまにはこういう日があってもいいわよね」

「僕もたくさん食べるよー!」


こうして賑やかに引越し初日の夜は更けていった。


「ふぅ、腹も膨れたし、本題に入るとするかのう」

「ん?本題?」


身を綺麗に食べ終えたチキンの骨を齧りながらカルミラが言うので、俺はなんだろうと先を促す。


「原因は不明じゃが、町の色々な場所で魔素が漂っているのを見つけてのう。知っておるだろうが、本来魔素はこの世界には無いものじゃ。どんな悪影響を及ぼすのか分かったものではない。見つけ次第、その魔素を除去して欲しいのじゃ」


「魔素を除去?そんな事出来るの?」

俺はフィオナとルッカの方を見る。二人は頷き、代表してフィオナが答える。


「魔素は近くに魔道具があれば勝手に吸うわ。向こうだと魔素は世界から溢れているものだから無くなることはないのだけれど、この世界だと勝手に増える事はないから消える一方になるわね」


なるほどそうなのかと納得する。確かに魔素を処分出来なければ、今でも前の家のベランダに未だに魔素が残っているのかという話になる。俺はすっかり頭から抜けていたが、フィオナがしっかり処分してくれていたようだ。


「そんな訳で、わしから凪にプレゼントじゃ。引越し祝いという事での」

そう言って渡されたのは、綺麗な石のペンダントのようなものだった。


「これは?」

この流れでただの宝飾品という事もないだろうと思い、カルミラに聞くと案の定それは魔道具であるという。


「魔力をやりくりして作った傑作ぞ。ボタンが並んでおるじゃろ?1番上のボタンを押せば、近くに魔素が漂っていると反応し、方向を示す。真ん中のボタンを押せば、わしの持つ対になる石にメッセージを飛ばして通話する事もできる。更に!1番下のボタンを押せば……」


ゆっくり溜めて顔を近付けるカルミラに、なんだか嫌な予感を感じながらゴクリと唾を飲みこむ。


「お、押せば……?」

「わしが録音した声が流れる。なんとこの世界の技術を参考にして、イヤホンジャックも付けたのじゃ!左右からわしの声が、まるでASMRのように聞く事ができるのじゃ!」


案の定ろくな機能ではなかった。だがしかし、内容は気になるのでとりあえず押してみることにした。


石のアクセサリーの近くに、薄いシルバーの小さな金具のような物がぶら下がっており、そこにかろうじて押せるかなというようなボタンが3つ付いている。1番下にあるボタンをポチッと押す。


『ふー。ビクビク震えてかわいい奴め。耳が弱いのかのう?ほれほれ、もっと虐めてやるかのう。ふー。ふー。ふふふ、なんじゃビクビクしおって。こっちも固くなっておる――』


「だーー!」

もう一度押すと、音声は止まった!


「どうじゃ!気に入ったかのう?」

ニヤニヤ笑うカルミラに、俺は怒鳴った。


「使えるか!こういうの困るんだよ、俺は同じ過ちは繰り返さないぞ!」


フィオナの方を見ると、ニッコリ笑って頷いている。よし、少し危なかったがなんとか誘惑に打ち勝った!


「むぅ、ダメか。ならば、入れて欲しい音声のリクエストを聞いてやろう。お主が望むとおり、なんでも吹き込んでやるぞ?」


の、望むとおりなんでも?頭の中で色々なシチュエーションが再生される。それが耳元でASMRのように流れる?う、少し欲しい……!


「なーぎ」

耳元で声がした。フィオナの綺麗な声が、まるでASMRのように……


「死にたいの?お望みなら、いつでも殺してあげるわよ」


囁かれる声には、殺意が滲んでいた……


結局音声機能は封印され、通話機能と魔素の探知能力だけが残された。


「まぁそういう訳じゃから、よろしく頼むぞ」

そう言って頭にタンコブのできたカルミラは、再びモヤの中へと消えていった。


「ピザ、美味しかったよ!ありがとう!」

ゼラもぴょんとモヤに飛び込んでいった。


「いやぁ、なんだかんだ楽しかったね」

右頬に赤い手のひらの形の模様が出来てしまったが、概ね楽しい食事会だった。


「贅沢なご飯だったんだぞ!」

ルッカは大満足な様子でソファーに転がっている。


「食べてすぐ横になるのはやめなさいルッカ」

すぐさまフィオナが注意するが、ルッカはぶーとむくれながらソファーの上を転がっている。


『そろそろお庭で休むね』

そうホワイトボードに書き残すと、イーリンは庭へと出ていった。ちなみに、イーリン用に犬猫が使うような小さな出入口を作ってある。


「俺達も、今日はもう風呂に入って寝ようか」

「そうね、そうしましょう」


フィオナが用意をして風呂場へと向かう。


「どうしても欲しいなら、あの吸血鬼じゃなくて私に頼みなさい、入れてあげるから」

「え?」


一瞬なんの事だろうと思ったが、すぐにあの魔道具の話かとピンときた。フィオナが、ASMRを……?


「ちょ、フィオナさん?」

だがフィオナはぷいっと顔を背けると、逃げるように風呂場へと行ってしまった。なんだかすごくモヤモヤした夜になってしまった。

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